建主も建築家も走った
作品/「s-house」
設計/柄沢祐輔
建主はネットワーク哲学の研究者。建築家と建主が一丸となって、「短い距離」と「長い距離」が共存し、多様性と秩序のバランスがよい自然界のネットワーク構造を、建築によって再現することを目指した。
取材・文/大山直美
写真/Sergio Pirrone、鳥村鋼一
情報ネットワークの発達により、私たちは30年前には想像もしなかった生活を送っている。隣人の顔も知らないのに、地球の裏側にいる人と隣り合った感覚で話ができる。こうした距離の長短が錯綜した空間体験ができる建築を目指したのが、この住宅である。
「ネットワーク型の空間」を目指して
住宅密集地の一角に立つ家は全面ガラス張りで、外周に壁はない。4層のスキップフロアからなる内部は、各フロアを田の字型に4分割し、互い違いに床と吹抜けを配置。それぞれの床は、中央の斜めの壁と階段、枝分かれと合流を繰り返しつつ建物のまわりにぐるぐると巻きついた梁と一体となり、見た目もまさにネットワーク状の構造体を生み出している。
室内は、交錯する斜めの壁や階段のあいだからほかの部屋の一部が見えるワンルームだが、同一フロアの対角線上にある2室のあいだに廊下はない。そのため、たとえばリビングからキッチンに行くには、目の前に見えるにもかかわらず、半階上の書斎に上がってから半階下りることになる。設計者の柄沢祐輔さんによれば、遠近感や奥行きの感覚が攪乱されることで、実際の倍以上の広がりが感じられるそうだ。
大学時代から情報空間をいかにして建築化するかを研究してきた柄沢さんは、短い距離と長い距離が同時に存在するような「ネットワーク型の空間」に可能性を感じ、これまで漠然とアイデアをあたためていたという。
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