特集5/独学の建築家

建築家としての下積み

——独立するまでにどのようなキャリアを積みましたか。

川口 18歳から31歳まで、勤務先を7回替えました。建築関係のいろいろな業種で働きましたが、どこもいやになって辞めてしまいました。路頭に迷う一歩手前のような状態でしたが、妻に「もうあなたには勤める先はない、自分でやりなさい」と諭されて、いわば追いつめられて独立しました。

——その間、建築家になろうという望みはもちつづけていたのですか。

川口 建築がどんどん好きになっていきました。ある集まりで私の隣に今では友人の椎名英三さん、その隣に彼の師匠の宮脇檀さん、さらに西澤文隆さんがいらして、談論風発、とても楽しかったのですが、私のいる世界と椎名さんから向こう側の世界とのあいだにはものすごく深い溝があると痛感しました。それを少しでも埋めたいと思って、長いあいだ苦闘しました。

——そう思い立っても師匠がいないし、身近にそういう環境が用意されてもいない。

川口 一番の頼りは本です。手当たり次第に本を買い、読みました。古本屋にどうしても手に入れたい本があるけれど、お金がない。そういうとき、その本をこっそり最下段に押し込めておき、後で買いに行ったこともありました。

——技術的な知識や情報も本から得たのですか。

川口 本と雑誌。技術に関する雑誌の特集ページなどは、すみずみまで読み通しました。納まりについてはなるべく実物を見て、実測もしましたが、断面は見えないから雑誌に掲載されている図面が頼りでした。でも、そういうことについては独学であろうと、大きな組織にいようと同じでしょうね。本人の気合次第で、身につく度合いも違ってくる。

>>「映水庵」
>>「礫明 第一期」の図面を見る

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