建築家の数だけ、違ったアジアがある

藤原 空間構成についてはビライさんもおっしゃったように、「ショーケースにはしたくない」という思いがありました。彼らの思想が有機的に応答しあうようなものにしたかった。つまり、それは会場構成の破綻を意味するんですが(笑)、最初から破綻をデザインすることはできないので、彼らの応答を引き出すフィールドを用意することにしました。通路を除いたスペースを5等分し、それぞれの割り振りを強制的に決めたうえで、「この最低限のルールに対し、建築的に応答して打ち破ること」という展覧会のコンセプトを準備したのです。そして、ビライさんとアジア各国を旅し、全員と会って、事務所や作品を見学した後に、そのルールを説明しました。

——まさに生の匂いや音、味を感じられたんですね。みなさんは期待どおり、ルールを破ってくれましたか。

藤原 最初の案はほとんどの人が「オレの話、聞いてた?」ぐらいにブレイクしてましたね(笑)。それだけ各自がこちらが設定したルールに対し、真剣に個性的に応答してくれたのだと解釈しています。

——大まかな構成を教えてください。

藤原 全体は大きく「自然」と「日常」というふたつの極に分かれています。まず下の階では、シンガポールのリン・ハオと中国・大理のチャオ・ヤンの作品を展示します。ふたりは異なるアプローチから、自然と人工物である建築の連続性に取り組んでいます。
 中庭には、ベトナムのヴォ・チョン・ギアによる、建築と自然が編み込まれたような竹のパビリオンを展示します。手仕事が陥りがちなディテールや技術に終始せず、空間の強さをもった独特の建築です。
 上階はタイのチャトポン・チュエンルディーモル、日本の大西麻貴+百田有希の作品を展示します。彼らもそれぞれアプローチは異なりますが、日常生活の豊かさをいかにして建築に取り込むかがテーマです。上の階を見て下の階に戻ってくると、下に展示された建築の中でどんな生活をするかを想像することになり、また感じ方が変わってくると思います。
ビライ 私たちはとかく「アジアはひとつ」と思いがちですが、この展覧会を見ると、アジアは本当にたくさんあることに気づくでしょう。各建築家の日常、置かれた環境や自然、それをどう受けとめるかによって、つくる建築も変わっていく。建築家の数だけ、違ったアジアがある。それを感じてほしいですね。

藤原 5組の展示は多様ですが、すべてが建築の可能性であり、どれが正解ということはありません。見た人の心にいろんな形で響くのではないでしょうか。


>>展覧会で紹介する建築家5組を見る

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