インタビュー

なぜ特殊な
構法なのか

インタビュー
建築家/原田真宏+原田麻魚

一般的な構法を用いれば、住宅を安定して効率的につくることができるように思える。一方、特殊な構法によってつくられた建築は独自性があり、魅力的でもある。単に独自性を求めた結果なのだろうか。背後には、大きなシステムや社会と向き合う視点があるのではないか。さまざまな構法によって住宅をつくりつづけてきた、原田真宏さんと原田麻魚さんに話を聞いた。

聞き手・まとめ/伏見唯
写真/藤塚光政

社会の理とともに
自然の理を求める

——今号は「構法」の特集です。柱と梁が軀体になり、床、壁、天井で空間を形成するような、一般的な建築の構成方法があります。ここで取り上げたいのは、そういった一般的な構法ではなく、新しく、特殊なものに注目します。現代では、建築生産のインフラが整備されていて、わざわざ新しい構法を考えなくても建築をつくることができます。それでも、なお、新しい構法の建築がつくられ、人々を惹き付けることがあります。原田さんたちの建築も、構法を抜本的にとらえたものばかりですが、それはなぜなのでしょうか。

原田真宏(以下、真宏 その質問に答えるためには、まずは僕の子どもの頃のことを話すのがよさそうです。僕の出身は、静岡県の焼津という港町です。父親は造船所で船の設計をしていて、幼い頃からそこへよく遊びに行っていました。テスト航海に連れて行ってもらうと、大海原が360度広がっていて、まるで自分だけがその中心に浮かんでいるようでした。僕が人生で最初に感動したオブジェクトは、建築ではなく、船だったのです。船はすごくかっこいいな、と。
 まず船は、とても合理的にできています。嵐にも雷にも耐え、しかも人や大量の積み荷を載せても沈まないのは、オブジェクトとして自然の理にかなっているからです。一方で、船をつくる動機は、社会が発端になっています。人や物を運び、それらを流通させることが求められ、そのツールとしてつくられたオブジェクトが船です。そういった社会的要求を満たしながらも、自然の理でつくられた船の姿は、とてもバランスがよいと思うのです。

——そういった船の姿を、建築でも実現したい、ということですか。

真宏 はい。建築を空間の構成体と考える人もいますよね。透明な豆腐みたいなものをどう並べていくか。建築は実体よりも、社会的な機能を満たす空間が大事であり、それが建築の本質だという考え方です。それに対し、実体の構築体が建築だと見る人もいる。物質をどう組み立てて建築をつくりあげていくか。そこには、自然の理が求められます。どちらも正しいと思っています。空間の構成体と、実体の構築体とが、バランスよく成立している姿になったとき、初めて建築は船のような価値を獲得できる気がします。

——原田さんが求めるバランスのよい姿は、既存の木造軸組構法などではないわけですね。

真宏 木造軸組構法などは、現代の社会システムのなかで空間を構成する一般的な方法であって、これがなければ、日本の住宅は成り立ちません。反復してつくっていくためには、とてもよい構法です。その意味では合理的だと思います。しかし、やはり社会の要請に従って考案された構法であって、自然科学的に純粋な理でつくられたものではないと思います。

——既存の構法は、社会的には、流通や申請などの点で合理的ですが、確かに建築を純粋に物質として見たときには合理的かどうかは、わかりませんね。

真宏 自然の理にかない、なおかつ社会の要求にかなっている状態をつくることが大事だと思っています。ゲーテがボローニャの斜塔を見たときのことを、「斜塔はいやな眺めであるが、しかし、わざとこういうものを建てたのに相違ない」と、『イタリア紀行』に書いています。新奇性を求めた斜塔を好まなかったのです。彼は、「市民の要求をかなえる『第二の自然』」が、よい建築だととらえていました。僕が大好きな言葉です。建築も自然の一部だと思います。
原田麻魚(以下、麻魚 鳥肌が立つような言葉ですよね。
真宏 また、社会の理だけで建築をつくると、コンテクストを共有していない人には伝わらないことがあります。だから僕たちは、「宇宙人が見ても美しいと言われるものにしたいね」と思っています(笑)。社会的コンテクストが消えても、建築に添えられているテキストが何もなくても、価値を認められるものが、自然の理にかなったものなのだと思います。そういうことを考えていると、既存の構法だけでは物足りなく感じてしまうのです。

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