
実際に玄関から内部に入ると、視線はその架構に微妙にさえぎられながら水平方向・垂直方向に抜けていく。光のグラデーション、音の響きなどから、そこが外観そのままの大きな気積をもつワンルームであることはすぐに認識できる。
篠崎さんは、「全体がやわらかく分節されながら広がっていくような空間」と説明する。
Y字柱は分岐した上部で隣のものと重なり、それが4組、計8本置かれている。4組のうち2組は上部に構造用合板を張って構面をつくり、耐力壁として効かせる。その菱形状の壁と外周壁で水平力を負担しており、柱間に設ける一般的な耐力壁はない。また、柱脚部は鉄筋コンクリートの基礎柱型内に埋め込んで水平剛性を高めているが、それは前出の400㎜の床高に納められ、掘立て柱としての表現が貫かれている。
Y字を構成するのは90㎜角の集成材。在来木造でよく目にする105㎜角のものよりひとまわり細い。材同士は、接合金物を挿入し接着剤を充塡した後に木のふたをしているので、金物は表から見えない。耐力壁ではちりをとって壁厚を抑えるなど、繊細な表現がなされている。
そしてY字に分岐する高さは3種類に設定された。それにより低い場合は囲われた感じ、高い場合は抜けた感じが強くなり、分節の加減をコントロールしている。その高さは、Y字同士の交点、さらに2階・ロフトの床高とリンクし、構造的には低いほど安定する。それら多くのパラメーターを調整して架構は決定されているが、実際の空間はシステマチックな感じを与えず、むしろ恣意的につくられたような印象さえ受ける。
2階・ロフトの床はY字柱にドリフトピンで縫いつけられており、地震力は受けない。つまり軽やかな見た目のとおり、この床がなくても住宅の構造は成立しているのだ。
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