ケーススタディ04

青森―仙台―奈良

 設計者の有山さんと松原慈さんは、大学院のときにGPSを利用したツール開発の研究助成金を得たことをきっかけに、もうひとりの仲間と3人で事務所を立ち上げた。そのうち、店舗デザインや展覧会の会場デザインを行うようになったが、並行して美術のジャンルで、いわばアーティストとして制作やワークショップへの参加を要請される機会が巡ってきた。建築のジャンルに根を置きながら、インテリア、グラフィック、ウェブなどのデザインに重心を置きつつ、アートへと活動範囲が広がり、ジャンルを自在に横断する、というかジャンルの境界線をことさらに意識しない、しなやかな活動を継続してきた。
 2012年には、青森国際芸術センターでのグループ展と仙台スクール・オブ・デザインでの滞在制作の招待がほぼ同時にあった。両方ともに空間的なインスタレーションが求められていたことから、実施設計の段階に進んでいた「33年目の家」と関連付けることがもくろまれた。展示スペースの規模と予算に応じて、青森では「33年目の家」のふたつの平屋の箱を、また仙台では箱の上にのせる小さな小屋を、いずれも原寸大で制作し、そのまま奈良に移設するという計画がスタートした。
 移設を前提とした構築物が、そのまま恒久的な家に転化する。美術のジャンルに含まれる活動が、そのまま建築のジャンルにシームレスに移行する。あるようでいて実際にはめったに生じない事態であり、行為である。有山さん、松原さんが継続してきたいく筋もの活動が一カ所に流れ込み、集約され、結実したといえるのだろう。
 そうした視線からもう一度この住宅のシェルターと箱の組み合わせを観察すると、木と鉄という異なる材質の線材が同一の寸法、精度をもって縦横に飛び交い、合板、白漆喰、中空ポリカーボネイト、エキスパンドメタル、ガルバリウム鋼板、ガラスといった面材がそれぞれテクスチャーと透明度を違えて重層し、全体としては境界面が明瞭に存在する建築空間というよりは、光、風、音によって刻々と変化して止むことがない様相を時間の経過とともに生み出していく装置であることが理解される。

>>「33年目の家」の平面図を見る
>>「33年目の家」の断面詳細図を見る

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