
図面上で平面構成をみると、妻入り、通り土間、それに沿って店舗(事務所)、寝室、居間、キッチンなどの異なる機能の室が直列に並んでいる。入り口から裏庭まで貫通している通り土間はときに通路、ときに中庭と自在に幅を変えている。長さ19mのほぼ中央に井戸がある。既存の家屋の解体時に思いがけず床下から現れたものだが、あたかも設計時点で組み込まれていたかのような絶妙の位置にある。想定外のこの事実が、敷地の形状を素直にとらえ、必要な機能を効率よく配すると、自然にこうした構成に行き着くことを示している。
図面上ではバナキュラーな町家の構成が忠実に踏襲されているようにみえるが、実際の様相は違う。鉄骨の家型シェルターの内側に、それとは完全に縁を切って、木造軸組の箱が3つ置かれている。箱は必要に応じて大きさを違え、凸凹があって整形ではない。きれいに揃って並んでいるのではなく、面がずれ、高低が変わり、散在している状態に近い。シェルターが正確な規則性を備えているのに反して、箱は不規則で自由なリズムを刻んでいる。バナキュラーな町家が内外一体となって特定の規則的なリズムを奏でている姿とは正反対といえる。
箱の散在という構成は施主夫妻の意向を汲んでのことでもある。子どもができたときに購入した家に住みはじめてから33年目に新しい場所に移ることを決めた施主は、有山さんの両親で、もし敷地にゆとりがあれば、季節、天候、気分に応じてあちこちと移動するというテント生活の延長のような住み方を望んでいた。カヌーの競技や普及活動に打ち込んできたアウトドア派の父からすると、日常の住まいも土地に縛りつけられるのではなく、より融通のきく住み方に憧れがあったのではないか。さすがに現実がそれを許さなかったが、不透明な壁を極力なくし、ガラスと半透明のポリカーボネイトを多用した開放的な箱は、常設というよりはよほど仮設的な感覚をもっている。






