特集4/対談

所内での、師と弟子のやりとり

——そうした新しいコンセプトや材料が、所員から提案されることもありますか。

難波 ほとんどありませんよ。みんな勉強しないんだもの。
河内 自分なりには勉強しているのですが、ちょっと勉強したくらいでは、難波さんに太刀打ちできませんよ(笑)。それと、「箱の家」は、まずは難波さんが200分の1の平面スケッチを描いて、それを所員がCADで起こして、チェックバックを戻す、という流れで設計しているのですが、スケッチの精度がかなり高くて、その時点で、構造などの大枠はほとんど決まっています。もちろん所員も微調整はしますが、設計過程は、そんなにインタラクティブではないですよね。
難波 ただ、河内君が辞めた直後くらいからは、大学の教員になったこともあって忙しくなったから、所内コンペもするようにはなったんですよ。僕の案ではなく、所員の案が採用になったことは何度もある。それは、所員が「箱の家」を理解してきてくれたからだと思います。

——「箱の家」をはじめ、難波さんは設計方法をどのように所員に伝えていますか。

難波「箱の家」については、すべてオープンソースとして公開していますし、これまでの施工図の合本がすべて事務所にありますから、所員はそこから自分で学んでいます。「箱の家」は標準化されていて、敷地や家族が違っても基本的な仕様は同じですから、極端な話、前の図面を転用しても設計をすることができるようになっています。そういった意味では、「箱の家」は結果的に、数年で所員が入れ替わるアトリエ系の設計事務所にとって、効率的な設計方法になっているのかもしれません。
河内 標準化されている「箱の家」を見て、寸法や性能などの建築の基本的なことを勉強できると思ったのも入所の決め手でした。それは、とても身になっていて、今でも役に立っています。
難波 この「アミダハウス」も、そうした寸法でできていますね。「箱の家」の寸法は身体にしみついてますから、見ただけでわかりますよ。
河内 一つひとつの部屋は標準的な寸法でつくり、そのつながりで大きなワンルーム空間を生み出していく、という手法は「箱の家」から学んだことです。ワンルームにすると、見たり感じたりする情報量が多くなり、空間の密度が高くなり、楽しさや豊かさにつながると思っています。
難波 そのためには、オーダー、つまり秩序をあまりもち込まない、ということも重要なんでしょうね。分散して均一で、しかも中心がない、という状態にしないと、空間の密度は上がらない。ここは何の部屋、とか用途もあまり明確に出さないほうが効果があると思います。
河内 そういうふうに設計すると、どの場所も入れ替え可能な状態になり、汎用性を帯びますよね。以前、西沢立衛さんが「どこでもリビングだ」と言っていましたが、その言葉に共感しています。
難波 西沢さんが設計した住宅もそうだけど、この家もパーティをしたら楽しい場所だと思うよ(笑)。いろいろな場面でいろいろな光景が見られる。
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