特集3/対談

建築を突き詰めていくこと

——矢田さんがスタッフ時代に学んだのはどんなことですか。

矢田 いつまでも、ずーっとよくしていく、突き詰めていくことですね。事務所で図面を描いていても、竹原さんが戻ってくるのは夜遅くなんですね。それで自分ではよくできたと思って見てもらうと、「なんか違(ちゃ)うね」で終わってしまう。決して「あかん」とは言われない。言葉ではないけれど、もっとがんばれということなので、また考える。しんどいです。でも僕も独立してからわかったんですが、お互いにしんどかったと思うんですよ。僕がスタッフに対して、そうやって待つことはできません。「これ、ダメ。こうしなさい」と言うほうが早いですからね。
 あるとき、どうやってもうまくいかないプランがあったんです。それを竹原さんが「こうやったら、うまくいくのと違う?」とディテールを考えて見せてくれて、「うわっ、できるやん」と。つまり自分はそこまでいっていない。ああ、まだまだだなあと思いました。
竹原「そんな簡単にはできない」というのは教えられないんですよ。まだ少ししか経験がないのに、本をちょっと見たくらいでできるわけがない。そこで粘る。建築はどこで結論を出すかということだけなんです。考えるのが僕らの仕事ですからね。建築をつくるというのは、絶対にこれでいいと自分に言い聞かせなきゃいけないから恐いよね。
 それでこれは、手で描く図面だからそういう話ができる。CADだと、紙にプリントしてもらわないとわからない。スタッフは「考えた」と言いますが、何を考えたんだ、と。図面からは部分しか見えないんです。ただ一枚の図面のもつ力というのは、全然わからなくなってきた。
矢田 難しいですよね。僕は手描きの時代だったので、悩みながらつくった寸法は身体にしみ込んでいる。あのときにこの寸法にしたのは、こう感じたからだとわかっているから、次はどういう寸法と決められる。CADは体感で見ていない。エアコンの温度設定で何℃が快適というのと同じです。
竹原 とくにこの家のように、レイヤーがかかって動きのあるものをCADで描くとじつにつまらない。手で描くと奥行き感を知っているからまるで違う。そこはこれからのジレンマになっていくところではないかな。
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