特集/ケーススタディ3

選択肢として残っていく

 近隣の住人も、良識ある若者が街に住み着いてくれることを好意的に受けとめているようで、「うっかり玄関の鍵を差しっぱなしで中に入っていたりすると、近所のお年寄りが扉をたたいて『あかんあかん、不用心やで!』と声をかけてくれます」と笑う竹村さん。どんな防犯設備より心強い存在にちがいない。ちなみに、個室の鍵はかけていない人が多いとのこと。
 竹村さんの部屋を見せていただいたが、所有物の少なさにも驚かされた。家具はベッド以外、いっさいなく、本も畳の上に並べ、ノートパソコンはベッドの上で使用。収納は足りなくないかと聞くと「足りなくないですね、身軽でいたいんで」という答えが返ってきた。
 魚谷さんは、シェアハウスの今後について、次のように話す。
「昔の下宿も、ある意味ではシェアハウスでしたが、当時は選択肢がそれしかなかったんですね。その後、プライバシーを求めてワンルームマンションが登場し、ある程度プライバシーが確保できたら今度は反動で、やっぱりワンルームはさびしいから、みんなで住みたいということになってきた。どちらがいい悪いではなく、好きなほうに住めばいいし、自分はワンルーム派だけど、人生のうち1~2年はシェアハウスに住んだら楽しいかなというのもあってもいい。そういう選択肢が増えたのはいいことで、一時的なブームが去っても、シェアハウスはある程度、安定して残っていくのではないかと僕は考えています」
「京だんらん 東福寺」に関していえば、京町家というほかにはない魅力が成功のポイントになったことは言うまでもない。一生に一度は京町家に住んでみたい。味気ないワンルームマンション暮らしより、帰宅したらあかりや暖房がついていて、誰かが「お帰り」と出迎えてくれる生活が送れるなら、暑さや寒さ、多少の気遣いは苦にならない──そう考える若い単身者層は確実にいるだろう。今後、シェアハウスという形で大型の京町家が生き残っていくかどうかは、供給側の知恵とセンスに委ねられているといえそうだ。


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