神﨑建設の標準仕様となっている床組の下地には、2寸角(60×60㎜)の根太が300㎜ピッチで並ぶ。その上に、無垢材の下地と仕上げのフローリング。「大量の本やグランドピアノをどこに置いてもビクともしない」と神﨑さんが胸を張る頑強な構造だ。構造壁もしかり。4寸角(120×120㎜)の無垢の柱のあいだに、ふたつ割り(厚さ45㎜)の筋かいがタスキで入り、外側をヒノキ材の木ずりで固める。「木ずりは杉でも試したけど、ヒノキが強い」というこだわりの選択だ。こうした仕様が、現在大手メーカーなどで主流になっている合板を使う仕様よりはるかに強いことを、神﨑さんは実験で証明する。この「実験」こそ、神﨑さんの真骨頂。自ら大工を連れて材料を試験機関にもちこみ、さまざまな実験・計測を行うのである。
たとえば、4寸角の無垢のヒノキと集成材の柱を用意して、曲げ荷重をかけ、部材が破断する最大点応力を計測。集成材は無垢材の6割程度の強さしかないことを明らかにする。ここで注目したいのは、無垢材と集成材のどちらが強いかといった実験結果ではなく、神﨑さんの「実験してみよう」という発想だ。問題意識がなければ、そもそも調べようという発想は出てこない。続編の著書のなかで神﨑さんは、建て主から「こんな木は弱いからダメだ」といわれたことが実験をしようと思ったきっかけと述べているのだが、その根底には建築界の常識や思い込みにしばられない自由な発想がありそうだ。それは、神﨑さんが、建築学科などの教育機関ではなく、すべて現場を通じて建築を学んだことと無縁ではないだろう。





