現場の声を商品化

 さて、最先端の病院は水まわりにも工夫がちりばめられている。環境整備課の座間さんは長年、病院内のトイレに関するクレームとその改善に取り組んできた、いわばその道のスペシャリスト。じつは「癒しのトイレ研究会(*2)」にも深くかかわっているという。座間さんは当初、各メーカーに対し、病院のことを本当に考えてつくった商品がない、看護する側にも患者さんにも使いにくいものが多すぎるといった意見を熱心に投げかけているうちに、「いつのまにか『癒しのトイレ研究会』に引き込まれてしまいました」と笑う。
 この新病院には、座間さんを中心とした病院スタッフと癒しのトイレ研究会のメンバーによる共同研究の成果がいたるところに反映されている。座間さんによれば、とくに水まわりの感染症対策、転倒リスクの低減(一番多いのはトイレ)の2点を中心に考えたという。
 たとえば、各ナースステーションの出入り口に設置されているスタッフ用手洗器もその一例。現場の看護師の声を反映させ、商品化にこぎつけたもので、感染症をなるべく起こさないようひんぱんに手を洗える環境をつくり、手洗いを習慣づけるため、スタッフの動線上にも多数設置された。コンパクトながらボウル面が深くて大きいため、手首までしっかり洗いやすく、かつ水はねも減り、さらに高さも高めなので腰への負担が軽減。その上部に設置されたペーパーホルダーも、下から取り出せる感染症配慮の秀逸なデザイン。座間さんの要望をもとに、 日建設計が手がけたオリジナルだ。
 また、個室内のトイレをあえて窓ぎわに配置したのは、配管スペースを外壁側に配することで、バルコニーからの点検や改修をしやすくするためだ。トイレ内にさりげなく配した扉付きの収納は、じつは蓄尿架台。「面会の方が来られた際、蓄尿カップが置いてあると見た目にもよくないし、臭いも気になるので、あそこにしまって、臭いも室内にもれないよう、外から空気を引っぱって陰圧にする仕掛けも備えています」と座間さん。
 一方、病棟の多機能トイレには引き戸の内側にカーテンが取り付けられているが、これは使用中の患者が非常ボタンを押して外から扉をあけた際、廊下を歩く人から丸見えにならないように配慮したもの。さらに、低層階の外来用トイレのブースには、円弧のドア(ウェイブレット)を採用。円弧に沿って楽に開閉できるので、出入りしやすい。 
 シースルーのエレベータや病棟の開口部から外を眺めると、なんとも明るく開放的で、一瞬ここが病院であることを忘れそうになる。すみずみにまでこまやかな配慮が行き届いた水まわりが加わったことで、快適性はいっそう増している。その空間が患者の心におよぼす作用は決して小さくないにちがいない。

*1/BIM(Building Information Modeling)コンピュータ上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加した建築物のデータベースを、建築の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うためのソリューション。また、それにより変化する建築の新しいワークフロー。
*2/「癒しのトイレ研究会」はTOTOをはじめ、トイレ関連企業5社が主体となり、病院・福祉施設のトイレ空間の向上を目指して2000年に発足、これまで調査研究や学会発表、講演会などを行ってきた。


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