特集4/ケーススタディ

矢車に
組み込まれた
仕掛け

 その第1の因は出隅入隅にある。たとえば2階平面の場合、二間四方の単位を単純に4つ合わせると、入隅はなく4つの出隅があるだけ。それを矢車状に配置すると、出隅8つ、入隅4つ、計12のコーナーが生まれる。それがもたらす効果はめざましい。空間に抑揚がつき、躍動感が生まれている。さまざまな方向、さまざまな形の開口から光が射し込む。コーナーを通して外部の景観が内部に飛び込んでくる。1階の広間、食堂、台所の流れるような空間にその効果が最も顕著に表れているが、杉皮張りの外部でも効果が明らかである。すなわち、ボリュームが細分化され、ひとつの塊であったらもたらされたであろう圧迫感がすっかり軽減されている。
 第2の因は高低差である。敷地北西から南東へ下る傾斜を利して、1階では玄関・階段ホール、客間、洗面所の3つの空間単位から30㎝下がって中央の居間、さらに75㎝下がって広間、食堂、台所の空間単位となっている。これによって、どの場所からも外への眺望がさえぎられることなく通り、開放感がもたらされている。また、それぞれの空間単位の適度な独立性、ほかの単位との適度なつながりの両立が可能になっている。
 第3の因は、これらの総合としての回遊性、迷路性である。暖炉の煙道となっている「ボイドB」をぐるりと巡って展開する動から静への心が浮き立つような回遊、いずれも階段となっている「ジャンクションCとD」を伝って雰囲気を異にする空間を次々に巡る不思議な回遊。2階では風の道となっている「ボイドA」を巡る仕掛けに満ちた回遊。ひとつの住宅のなかにこれほどの多彩な回遊性が仕込まれ、別荘という非日常の生活を楽しむ場にふさわしい迷路性が生まれ、かつそれがたんなる遊びとしてではなく使い勝手に直結しているのは驚きというしかない。

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Movie 「ヒメヒャラの森」

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