特集3/ケーススタディ

室内意匠の本歌見聞

 明緑の庭に対しては黒子でもある室内意匠は、一度室内に入ると些細な光でも陰影にかえ、無地や無色よりも不思議と違和感のない表情をもつ。当然住まい手の生活スタイルは現代的なものだ。和が際立ちすぎると違和感のある落ち着かない空間になったことだろうが、ここではそうではない。室内意匠には、横内さんと和との距離が如実に表れている。
 たとえば床の鉄平石。目地を詰めて敷くのではなく、少し大きい目地をとって、その部分を洗い出しにしている。左官にとってはさぞ大変な仕事だろう。鉄平石は露地の延段にも用いられる日本の伝統的な材料だが、一方で現在の旅館や日本料理店にも使われ、いわゆる「和風」の典型にもなっている。そういった場合、多くは目地を詰めて不定形な石を並べる乱張りであるが、横内さんはこの乱張りを避けた。「コテコテの和風にならないように」との想いだ。では本歌は何か。倉敷の浦辺鎮太郎だという。確かに破格な方法で伝統材料を用いる建築家である。
 次に葦の天井。この葦も数寄屋で用いられる伝統的な材料ではあるが、同様に数寄屋風、茶室風の建物にも使われる。「和風」を避ける横内さんとしては使わなそうだが、むしろ天井全面に使っている。本来、小間の天井や床天井などの小さな部分に用いられる葦天井を、全面に。これはヨシベニヤという三六合板にもともと葦が取り付けられている材料で、白井晟一が部分的に使っていたのを見て、坪単価が安く、施工性が容易なこともあり、自身のスタイルとして意識的に採用したらしい。むろん、白井は和に対して独自の立ち位置にいた人物である。
 このように横内さんは生粋の和、あるいは「和風」からは距離を置いている。和というよりは洋だが、タイルの張り方も前川國男のもとでの経験を踏まえ、通常の通し目地や破れ目地ではない縦横を組み合わせた張り方(本歌は韓国のお墓)にしている。和にしろ洋にしろ、慣習として染みついた印象は重い。横内さんは、その本来は重い伝統材料をフラットなやわらかさに仕立てあげている。


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