特集3/ケーススタディ

セミコートハウスと庭

 セミコートハウスとは、その名のとおり四面を閉じたロの字のコートハウスではなく、一面を開いてコの字型にしたものである。横内さんが過去に何度か用いてきた平面だが、そのルーツは大学の住宅設計課題かららしい。この住宅の場合は、高生垣を借景とするために西側を開いている。高生垣が他者を排斥しているようで、じつは内を守りながらも外に豊かさを奉仕する仕様であることは銀閣寺でよく知っていたとしても、この住宅であらためて得心させられる。また、この住宅の庭に広がりを与えているのは、借景ばかりではない。ひとつは明らかに色を熟慮したであろう明緑と室内のほの暗さであり、実際の暗さだけでなく斑のある鉄平石、葦(よし)、炻器質タイルといったゴツゴツした素材が、明るい外光とともに明朗な軒裏やその先の明緑の庭との対比を際立たせることで、視覚的な奥行きを生み出している。洞穴から外を見る気分ともいえるが、むしろこれはかつて電灯のなかった座敷から縁側を挟んで日本庭園を見ていた和の感性に通じるものだろう。そして和室の配置も重要で、庭のなかに建物が突き出てくることで庭に距離感が生まれるとともに、木々とは別種の陰影が貫入することが庭の多様性を高めている。数寄屋の露地にとって、腰掛待合や中門といった建物が、灯籠や飛石そして樹木などと一緒に重要な庭の要素だったり、書院が雁行しながら庭に食い込んでいくのと同じ効果を生んでいる。
 セミコートハウスは、もちろんプライバシーなどを担保しながらも外界との接点をもつ都市住宅の形式としても説明できるが、横内さんにとっては庭と建築を一体的に考えるうえで、外部環境すらも庭として取り込んだり、庭と建築の領域の調整をする際に融通性のある間取りである点でも重宝してきたにちがいない。


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