特集/ケーススタディ8

焦点の消失

 設計者の意識はひたすら内部、とくに中心をなす広間に集中している。
 広間は円弧状の部分のほぼすべてを占めている。天井、壁ともに白、床は淡色のカーペット。白い環と称するにふさわしい空間。広く、そして天井が高い。しかし大きな空間とは感じず、むしろ幅の広い通路のイメージが強い。幅3.6m、長さおよそ18mというプロポーションや天井の強い傾斜も一因だろうが、円弧の強い曲率が一番の要因にちがいない。中に入ると、視線は強く曲がる壁を伝って延びていくが、先を見通すことができず、焦点を結ばない。人は近景と遠景の対比、あるいはパースペクティブの強度によって距離を体感し、推定するが、ここではそのどちらも得られない。近景と遠景に特別な差異がなく、パースペクティブに欠かせない焦点が消失しているからだ。これらによって、広がりの感覚が弱まり、まるで通路の片端に身を置いているような感覚を味わうことになる。


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