特集/ケーススタディ7

設計期間2年3カ月

 ル・コルビュジエ好みの施主の要望は明確だった。
「コストは最低におさえる。架構はコンクリート壁式構造。打放しは好きである。開口部は法規が定める最小量でよい。とくに書斎には大きな開口部をとらない。床は土足のままで靴は寝室に収納する。浴室便所は洋式で1室でよい。そして書斎と食堂と寝室に独立性をもたせる。食卓以外に家族が集合するような場所はつくらなくてよい」(*6)
 この住宅の設計期間は2年3カ月と異常に長い。長谷川は木造で設計したかった。
「寒さも暑さも蓄熱してしまうコンクリートは、室内環境を考えるとつくりたくなかったのです。傾斜屋根の案をもっていくとフラットルーフでいいと言う。靴を履いたままの生活がよく、壁の内側に断熱材を張り込み、石膏ボード壁のディテールをつくると両面打放しでよいと言う。なぜコンクリートの箱が描けないのですかと言う施主でしたね。1階に洗濯場のボリュームが少し飛び出しているところがありますけれど、あれは私が意図的にそうしたのです。そんなふうになぜかコンクリートの箱が描けなかった」(*7)
 断熱材は不要と言う施主の要望を飲みながらも、通常は150㎜の壁厚を250㎜に上げて断熱性能を確保し、コンクリート打放しの荒々しさを嫌って、室内は自らサンダーで磨いた。彼女のこのねばりは、後年の公共建築でいかんなく発揮されることになる。

参考文献・出
*1・5・7・8/ 『長谷川逸子/ガランドウと原っぱのディテール』 ディテール別冊、2003年7月刊、彰国社
*2・4・9/『海と自然と建築と』2012年、彰国社
*3/『SD』1985年4月号、鹿島出版会
*6/『新建築』1976年9月号、新建築社


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