特集/ケーススタディ4

ロマネスクの壁と光

 ちなみに、最初のオーナーが数年前、故あって家を売ることになり、現在は若い夫妻が住み継いでいる。
 元オーナーが引き渡し前に最後のオープンハウスを開くという知らせを聞きつけ、足を運んだ際に見た光景は今でも目に焼きついている。すべての家財道具が運び出され、軀体が露わになった内部空間の中でとくに鮮烈だったのは、降り注ぐ光を受けて立体的な彫刻のように浮かび上がる3層吹抜けの階段室、そして、居間から垂れ壁越しに階段室を見通した際の逆光の風景だ。垂れ壁が右手に行くにつれ、頭を打ちそうなほど斜めに下がっているのも、囲われた安心感を深め、かつ空間をより堅固に見せているように感じられた。
 自分でも不思議だったのは、築30年近い時を経た、とうてい施工精度がいいとはいえない打放しコンクリートの荒々しいローコスト建築の内部が、なぜか宗教建築のように神々しく見えたことである。今思うと、ロマネスク建築にも通じる壁の存在と綾なす光の陰影のなせる技だったのだろう。
 実際の暮らしぶりが見られなかったのは残念だが、考えようによっては、時間をさかのぼり、74年当時の原初の姿を見ることができたのは幸運だったのかもしれない。

参考文献・出典
*1/『埋め込まれた建築』1989年、住まいの図書館出版局


>> 「大和町の家」のアクソノメトリックを見る
>> 「大和町の家」の平面図を見る

  • 前へ
  • 4/4
  • Drawing
  • Profile
  • Data

TOTO通信WEB版が新しくなりました
リニューアルページはこちら