
「塔の家」の敷地はわずか6坪、建築面積は3.6坪。ここに家族3人の居住スペースに加えて駐車スペース、さらには仕事場まで入れ込もうとすれば高層化は必然で、地下1階、地上5階の計6層となった。一戸建てで6層は古今東西に例がないのではないか。
上下の動線は階段によるしかない。建築面積3.6坪では階段室の中に住んでいるようなものである。実際、内部には仕切りも1枚の扉も設けていないので、踊り場を拡張した床面が居住スペースになっているといっても大げさではない。限界を超えたぎりぎり感。極小の最果て。各人が最小限の手まわり品をもって泊まり込む山小屋ならば、あるいはこうした形が成立するのかもしれないが、日常の住まいとして本当に成立するのか、誰もがもつ疑問だろう。
けれども夫妻と娘さんの3人家族にとってはなんのストレスもなく、自然体で暮らしていける空間であるようだ。小動物が必要最小限の資材で効率よく築き上げた巣のように、ここでは壁、床、天井が身体の延長と化し、一分の隙もなければ余剰もなく、住み手にぴったりフィットした特別な空間になっている。
家具や備品は余分なものを排し、機能が損なわれない限り長く使いつづけ、整理整頓を常とする。住まいの内側で満たされないものは都心の利を生かして外に求める。このぶれのない暮らしぶりは潔く、さわやかで痛快だ。





