特集/ケーススタディ1

小さいことを「宣言」した建築

「塔の家」の魅力は、もちろんこれだけにとどまらない。
 たとえばその外形。ローコストを旨とすれば凹凸のないシンプルな箱にしかならないところだが、実際の外形は不整形な敷地に由来する手の込んだ多面体である。玄関ポーチの上の梁、5階テラス先端の下がり壁など、機能上は不要と思われる部位が外形を整えるのに効いている。全体として、小さいことを卑下して縮まってしまうのではなく、小さくても一人前であることを誇り高く宣言している。勇ましく、そして格好よい。
 もうひとつはコンクリート打放しの型枠がコンパネではなく、小幅板であることだ。板目は揃っておらず、節もたくさんある。その割付は大工の裁量に任されていたそうで、均一に整ってはおらず、融通無碍。コンパネ型枠打放しの、のっぺりとした均質性とは大違いだ。この荒々しい壁面が極小の住空間に適するのか、多くの人が危惧したはずだ。しかし、時とともに微妙に変化していく豊かなテクスチャーをもったコンクリート壁面は、内部はもちろん外部においても、さながら単色の大きな装飾画のように、細密にして雄大だ。今となってみれば、これこそが「塔の家」の最大の魅力と思える。


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