特集/座談会

あらためて「切実な建築」を

北山 60年代と70年代は、今考えても濃密な時代で、おもしろい建築がたくさん出てきたのだと思います。この特集で挙げられている住宅(11軒)は、象徴的に立ち上がった思想の塊として、純粋性をもって存在しているように思うのです。後の時代の人は、それらを組み合わせて編集しながらつくっていくことができる。ですから、学生たちや若い人にはよく見てもらいたいと思います。以降はだんだんと建築の概念が変わりつつあります。家族の形態が変わってシェアハウスが出ているように、「家未満・拡大家族」のような違う概念に飛び込みつつあります。
長谷川逸子 住まい方がすごい勢いで変わっていますね。シェアハウスなどは、建築家はもっと考えないといけない課題だと思います。都市部では高齢化が進むのに、普通の家族の形態を想定したマンションが今でもつくりつづけられていることは、もどかしく感じます。
北山 人口のピークも迎え、都市型はキープするにしても、これからどのように都市型の生活をするかというアイデアを、開発者はもちあわせていません。建築が金もうけの道具になってオートマティカルに生産されるだけだと、新しいアイデアがなかなか入りにくくなっています。そこに斬り込んでいくような方々が、新しい建築のあり方を見すえているのではないでしょうか。そのひとつに新しい共同体をつくる建築があると思います。
長谷川逸子 私の事務所にいる外国人のスタッフはシェアハウスに住んでいますし、高齢者だけのシェアハウスもあります。今までの家族とは違うグループ生活が現実にあるので、建築家も社会の要求に敏感に反応して、新しいアイデアを提示しなくてはいけません。不動産業者が手がけたシェアハウスを見学したことがあるのですが、建築家がかかわればもう少しうまくいくのに、と思いました。
北山 建築家はアイデアや概念を形にする能力は高いのですから、今要求されている生活のあり方を具体的に眼に見えるようにすることを進んでしなくてはいけません。今の東京ではお金がないのでシェアハウスに住む、というイメージがありますが、一つひとつのユニットが豊かで、高齢者もプライドをもって一人暮らしできる新しい集合形式が必要です。
長谷川逸子 もっといろんな形態を見たいですね。私にとっても、これからの若い人にとっても、シェアハウスやコレクティブハウスは重要な仕事のひとつだと思います。人口比率で30〜40%というものすごい高齢化を迎えるわけですから。

——高齢者の暮らしをリサーチしたり計画することは、若い人にとって難しいのでしょうか。

長谷川 豪 そんなことはないですよ。新しい時代のビルディングタイプはぜひ挑戦してみたいです。
北山 それこそ「切実な建築」が求められています。これまでは建築がアートオブジェクトのように飾られていたこともありますし、メディアは時代遅れのスターシステムに沿った建築家像をいまだに求めているように感じます。しかし今は表現のおもしろさとは違う次元に入りつつあります。伊東豊雄さんの「みんなの家」(*1)も、山本理顕さんの「地域社会圏」(*2)も、そうした新しい建築のあり方を求めていることの現れでしょう。
長谷川逸子 もう一度、グローバル化した社会と向きあおうとする建築家は増えています。そのためには、社会全体でみんなで協働しあえるような仕事にして、フォーメーションがとりやすい体制にしないといけないでしょう。
長谷川 豪「協業」という言葉があるらしいですね。近代以降、仕事を分ける「分業」が進んで、それぞれが専門職をやっていればよかった。でも、もともと建築というのは多くの人の協力やかかわりなしには成り立たないわけで、東日本大震災以降は、そうした建築プロジェクトの「協業」的な側面が大事になりつつあるように感じます。これからは物理的に建てる量が限られますし、どのようにつくるか、誰とどうやってつくるかといった、建てる前の議論がより重要視されていくのではないでしょうか。
*1 「みんなの家」
東日本大震災復興支援プロジェクトのひとつで、地元住民のコミュニティ再生の拠点となることを目指しているという。建築家に何ができるのかを問うために、伊東豊雄山本理顕、内藤廣、隈研吾、妹島和世の5名により結成された「帰心の会」が提唱した。被災各地で推進されている。
*2 「地域社会圏」
山本理顕が『新建築』(新建築社)2008年11月号の巻頭論文で提唱した「1家族=1住宅」に代わる新しい居住システム。社会を構成するなんらかの基礎単位として、たとえば「100m×100mの街区に400人程度の人口を想定する」という。
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Movie 「座談会 Introduction」

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