特集/ケーススタディ11

スパンを飛ばしたRC構造の発見

 建物のベースとなる鉄筋コンクリートの構造が、「余りの間」を成立させるのに大きく貢献していることは言うまでもないだろう。まずジョイストの梁成を抑えることで、その下端でも約2.5mの天井高を確保。さらに、細かく均等な梁が空間の方向性を強調し、箱の「振り」を効果的にしている。
 日本の住宅設計をふり返ると、1960〜70年代には、鉄筋コンクリート造による都市住宅が数多く登場した。そこでは一般に壁式鉄筋コンクリート造が採用され、その多くは壁の存在感を強く主張している。俗に言う、「コンクリート打ちっぱなし」のイメージである。
 しかしこの住宅の印象は大きく異なる。大きなスパンをもち、地震力に抵抗するため、東西の壁はそれぞれ35㎝もの厚さがある。しかし室内からその小口は見えず、プレーンな打放しの壁面は静謐さを漂わせている。
 また2000年代に入ると、住宅設計は構造家とのコラボレーションにより明らかな変化を見せる。小さなスケールであっても、構造家が参加することで空間の可能性は飛躍的に広がっていった。手塚貴晴+手塚由比と構造家・池田昌弘による一連の住宅をはじめ、その実例は枚挙にいとまがない。
「トンネル住居」は、それらの動きをリードする嚆矢のひとつと考えられる。設計コンセプトと構造とが、分かちがたく融合しているのだ。この構造が決定したときに、横河の頭のなかでは、振られた家具ボックスも、ジョイストのあいだに納まる階段・トップライトも、あらゆることが結像したにちがいない。


>> 「トンネル住居」の平面図を見る

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