特集/ケーススタディ11

領域をつくる箱

 北面の西側にある玄関を入ると、ホールにはスチールの軽快な階段がかかり、その上方からはトップライトの光が落ちている。鉄砲階段を上がっていくと、コンクリートの手すりの先、右手から斜めに振れた木の箱が現れる。ここでこの住宅のハイライトと立ち会うことになる。
 広々としたリビングスペースに、2.7m角、高さ1.9mの箱が、巨人の指先でヒョイとひねったように、45度に振って置かれているのだ。そして、この木の箱に沿うように進むと、前室的なエリア、居間のエリア、食堂のエリアという、3つの領域(テリトリー)が展開していく。大空間にちょっと突き出した角(かど)。そこには間仕切りの壁が立っているわけではない。木の箱による斜めのラインから、不可視でぼんやりとした延長線が生み出され、空間をゆるやかに秩序づけている。
「『余りの間』をつくり出すこと」がここでのテーマだと横河は言う。それは、開放感を少しも損なうことなく、そこでの暮らしに豊かな陰影を与えることではないだろうか。一見きわめてさりげない操作により、それはみごとに達成されている。最小限の操作で最大限の効果を得ること。その試みを「冒険」と呼ぶことに、なんのためらいもない。
 また「木の箱」は、実際には大きな家具ボックスである。空調・オーディオ・テレビ・電話・照明などの設備が的確に美しく収められ、内部はキッチンとなっている。栴檀(せんだん)は双葉より芳し。設計・施工を貫く精度は、 横河がその後の作品群で見せた緻密な品質を暗示する。そして上部の小さなトップライトは、梁下の隙間から周囲にやわらかい光を漏らし、箱らしさを演出している。


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