全長335mという長大な駅舎の2、3階にある客室フロアは、大きく南北ふたつのドーム部と、両者をつなぐ切妻部に分かれ、ドーム部には駅コンコースの吹抜けを囲むように放射状に客室を配置。一方の切妻部は長い廊下を挟んで、皇居側と線路側の両サイドにずらりと客室が並んでいる。さらに、ホテルでは珍しいメゾネットタイプも7室ある。
中村さんいわく「動線が長いデメリットをプラスに転じるべく、節で切って空間のリズムをつくった」という切妻部の廊下の見通しは、なんとも壮観。まるで合わせ鏡をのぞいているようだ。廊下沿いには東京駅にまつわるさまざまなアートや資料がギャラリーのように展示されており、眺めながら歩くと長い距離もさほど気にならない。じつはこの廊下、もとは幅4mだったのを半分の約2mに狭めたものだという。「建物を生かす以上、スパンは変えられませんが、部屋は広くしたい。そこで、廊下を半分にし、その分を皇居側の部屋に繰り入れて、標準的な部屋の床面積を30㎡から40㎡に増やし、その10㎡分をすべて水まわりの充実にあてました」と茶谷さん。
日本人観光客が多く、シニア層も少なくないことから、バスルームは洗い場付きが基本。たっぷりお湯を張って肩まで浸かってくつろげるよう、バスタブにはオーバーフロー穴をなくした。バスタブ側面上縁の中ほどには窪みが設けてあるが、中村さんによれば、これはお湯があふれた際の通り道であり、高さも数㎝低く抑え、出入りしやすいように配慮したものだそうだ。
水栓金物などの表示サインも、シニア層にもわかりやすいよう、気を配ったと茶谷さんは語る。「とかくわかりにくいのがシャワーの表示で、とくにオーバーヘッドレインシャワー付きの場合、いきなり冷水を浴びかねませんから、デザイン的におかしくない程度にできるだけサインを大きくしてもらいました」。洗面台の水栓金物にも色で視認しやすいよう、赤と青のラインをさりげなく入れたという。
このほか、感心したのが、照明の工夫。通常、夜中にトイレを使用する場合、暗い室内で足元灯だけをたよりにバスルームに入ったとたん、煌々と明るい照明で目が覚めてしまい、歳をとるにつれ、再び寝つくことができなくなるケースも少なくない。それを改善しようと、照明デザイナーにも協力を仰ぎ、"ナイトモード"ともいえる機能を設けている。室内の灯りを全消灯か足元灯だけにした状態(一般的な就寝状態)でバスルームの照明を点灯すると、通常の30%の明るさになるように設定。なおかつ、ベッドからバスルームに至る経路にも足元灯を壁面に埋め込むという念の入れようだ。





