重要文化財を現代に生かす先進例として

 改札を行き交う人の流れが見下ろせる、天井の高い「ドームサイド」、行幸通りの先に皇居の緑が望める「パレスサイド」、リビングとベッドルームでフロアが分かれた住宅感覚の「メゾネット」と、それぞれに個性をたたえた客室には、「次は違う部屋に泊まってみたい」というリピーター心をくすぐる魅力がある。ドーム部と切妻部ではカラースキームを変えるなど、多彩なデザインも見どころのひとつ。「建物は愛されないと長生きしないので、できれば何度も足を運んでいただきたいですね」と中村さん。茶谷さんによれば、ホテル宿泊自体が主目的で、観光に出かけるよりなるべく長時間ホテル内に滞在したいというお客様が多いため、目下、15時のチェックインタイムには平日でもフロントに行列ができるほどの人気ぶりだそうだ。
 おふたりとも、最も大変だったのは、文化財としての煉瓦壁の軀体を極力残すことを優先した結果、客室も、それに伴うユニットバスもバリエーションが非常に多くなってしまい、それを集約する作業だったと振り返るが、外からはそうした苦労は感じられない。新旧が一体になった居心地のよいホテルは、重要文化財の内部を現代施設として活用するという、日本ではまだ稀少な先進例として、今後も注目を集めていくことだろう。

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