以前のホテルは駅舎の南半分の1、2階(一部3階)にあったが、改装後は2階建てから3階建てになった建物のうち、1階の南部分と2、3階の大部分、さらに創建当時の屋根裏空間の一部もホテルとして活用されたため、延床面積は以前の約4倍、客室数も58室から150室に増えている。
ロビーに一歩入ると、外観のイメージを裏切らないヨーロピアン・クラシックのインテリアが広がるが、東京ステーションホテルの茶谷譲介さんによれば、当初は内部をモダンデザインにしたらどうかという意見もあったそうだ。確かに、ヨーロッパでは歴史的建造物の内部にモダンなホテル空間が潜む例も珍しくないが、はたして赤煉瓦の古い建物自体が珍しい日本で、あえて外と中を対比させ意表を突く必要があるのか。検討を重ねる一方、顧客対象のアンケート調査を実施したところ、外観になじむクラシックな内装を期待する声が多数を占めた。この結果もあり、最終的にクラシック様式に落ち着いたという。
インテリアの基本デザインを手がけたのは海外事務所5社によるコンペで選ばれたロンドンの設計事務所、リッチモンド・インターナショナル。「英国の事務所に依頼したのは、新しくつくるヨーロピアン・クラシックの空間に本物らしさを出すには、やはり本物を知る人たちでないと難しいだろうと考えたからです。日本人がまがいものの和風インテリアを見ると、障子の組子の縦横のバランスを見ただけでも違和感を感じるように、染みついた感覚があるはずですから」と茶谷さんは言う。
彼らによる内装の基本デザインは、実施設計を手がけたジェイアール東日本建築設計事務所と、設計協力をした日本設計によって、細部に至るまで忠実に具現化されている。設計を担当した中村智さん(ジェイアール東日本建築設計事務所・元所員、現在、日本設計)はこう語る。
「個々のデザインや仕上げに限らず、全体を優雅で洗練されたリッチモンドらしいスタイルで調和させ、エントランス、ロビー、エレベータホール、廊下、そして客室へと進んできたときの空気感を大切にしたつもりです」





