
——ところで、青森県立美術館の話が出ましたが、あの建物では「白く塗れ!」という青木淳さんの言葉のとおり、真っ白な空間が印象的ですが、この建物は少しあたたかみのある色で塗られていますね。
- 寳神 青森県立美術館では、白塗装のなかでもN-95という、白のなかでも特別に白い色が使われています。よく使われる白塗装には、じつはグレーが少しだけ入っているのですが、N-95は真っ白です。これは、白さを前面に際立たせた塗装で、いわば「白さを語る白」なのだと思います。ただ、この住宅では背景色として白を扱いたいと思いましたので、クリーム色に近づけました。特別なテーゼを込めない、単に地としてなじむ色を目指したものです。この住宅の施主は、わりあい装飾的な家具を好む方で、ドアノブやペンダントライトもそういったものを選んでいますから、建築側が真っ白なミニマルなデザインだと、全体がなじまなかったと思います。
——確かに、色も構成もミニマルなデザインではありませんね。ところどころで木造の柱や屋根の架構がむき出しになっているのはなぜですか。
- 寳神 この住宅は木造在来工法でつくられていますから、構造柱は910㎜のモデュールで整然と並んでいます。一方で、壁の位置は小部屋の面積や配置によって決めていますから、ところどころで壁と構造柱の位置がずれて、構造柱がむき出しになっているのです。また、家型の建物形状にしたために天井高さが確保できないところは、舟底天井にしているので屋根の架構がむき出しになっています。空間、形態、構造の3つの要素に並行して向きあった結果です。3つのうちのどれかを特別に優先するのではなく、場所によって臨機応変に主従関係を切り替えました。ひとつに統一せずに、複数の原理で設計することにより、ある原理が別の原理に思わぬ効果をもたらすと考えたのです。構造のことを考えたら、おもしろい空間が生まれたり、空間のことを考えたら、おもしろい構造が生まれたり、外観のことを考えたら、おもしろい内観が生まれたり……建築には、思考の外側から降ってくる豊かさがあるのではないでしょうか。
——よくわかります。ガチガチの計画の論理が、必ずしも建築を生み出すとは限りませんよね。今回の特集テーマ「やわらかなデザイン」を生み出すためには、そういった柔軟な設計手法も必要なのかもしれませんね。
- 寳神
「やわらかなデザイン」にするためには、「引き算」をしない設計が重要だと思っています。施主の要望を受け入れなかったり、構造を無理に省いたり……きれいな建築空間をつくるために、設計上で出てくるさまざまな事柄を受け入れずに捨て去る、つまり「引き算」をしてしまうと、どんどん「とがったデザイン」になっていく気がするのです。要望や構造などで想定していなかった事柄が出てきたとしても、僕はそれを受け入れて、むしろ建築にとって効果的なあり方に転換させることを考えたいと思っています。僕にとって、それが設計の楽しみでもあるし、もしかしたらそれが、「やわらかなデザイン」を生んでいる秘訣なのかもしれません。





