
今回の取材を通して、寳神尚史さんの設計には大きくふたつの趣向が見られました。まずひとつは、「物語を感じる」と形容される空間意匠の徹底したつくり込み。光や視線、そして素材などの扱いによって、ある種の演出的な意匠設計がなされています。明るさのコントラストを強くしたり、外壁のような素材を内装に用いることで、内外の空間を反転しようと試みたサンルームは、この住宅のなかでもとくに印象的でした。寳神さんがつくりあげた、住み手が所作に酔いしれてもおかしくないほどの、日常という物語の舞台のようです。
もうひとつは、そうしてつくり込まれた空間のなかに、住み手のライフスタイルや構造、敷地などのコンテクストが反発することなく受容されているところです。寳神さんはこれを「引き算をしない設計」と言っていますが、意匠設計のなかに、あえて意匠以外の外的な決定因子を組み込むことで、機能や合理の美しさをむしろ獲得しているように見受けられました。暖炉室の中ほどに立つ裸の構造柱や、サンルームの架構がむき出しになった天井は、素朴な小屋にも郷愁を覚える建築への純真な感情を思い出させてくれます。物語の結晶である舞台芸術は、こうした現実のコンテクストを通して、人間の本性になじんでいくのかもしれません。
建築計画には、「わかりやすいこと(理解)と、わかりあえること(共感)は、全然違う」という根深く普遍的な問題があると思います。計画のときに求められる理屈が、必ずしも体験するときの共感には結びつかないからです。しかし寶神さんは、共感を伴う計画を模索していました。それは可能か? 計画論の大きな題目を感じる住宅でした。






