特集/インタビュー1

——アーチや家型も印象に残ったのですが、こういった意匠も物語を感じるための工夫なのでしょうか。

寳神 アーチは施主からの要望でしたが、非常に強い印象を受ける形態ですから、小部屋の中にのみ使うことにしました。そのときに、イデオロギーを感じないように注意しました。アーチのような歴史的な意匠は、いろいろな様式や時代を連想させやすいものだと思いますので、この住宅でつくりたかった印象をくずしてしまう可能性がありました。そのため、ここでは半円アーチではなく、扁平な円弧のアーチにしています。アーチを歴史から解放し、新たな物語をつくり出す無垢な形態に還元しようとしたのです。僕が青木淳建築計画事務所で担当していた青森県立美術館(2006)でも、排気口にアーチを使用していました。このときはアーチのもつ文脈を意識的に扱っていましたが、今回はそうしたアーチの文脈をもって何かを働きかけようという意図はまったくありませんでした。
 一方で家型は、既存の意味合いを期待して意識的に使っています。家型もアーチと同じくらい強い印象を受ける形態だとは思いますが、家型の風情には多くの人が好意的な印象を受けるのではないでしょうか。家型は単純な形態であるにもかかわらず、なぜか人々は形態の行間に豊かさを感じる。いわば「含みの太さ」をもった形態なのだと思っています。また、家型は一戸の住宅を示す記号的な性格もありますから、大きな建物を分割し、小さな建物の集積に見せる効果もあります。この建物も前面道路側から見ると、3つの家型の連棟にも見え、敷地の大きな建物の威圧感を緩和していると思います。そういう考えがあるので、「TAMAMO」(07)などの過去の設計でも家型を何度も使ってきました。ちなみに、家型に対する好みは設計者によって異なるようで、使う人は何度も使うのですが、使わない人は生涯使わない、そんな傾向があるかと思っています。ヘルツォーク&ド・ムーロン、藤本壮介、アトリエ・ワン……家型を用いる設計者は、何度も繰り返し使っています。

——寳神さんが設計時に考えられた物語に共感できるかどうかで、この住宅の印象が変わりそうです。最初に述べたとおり、妙な「なつかしさ」を感じている私は、寳神さんの物語に共感しているということなのでしょうね。

寳神 多くの人が好意的になつかしさを感じる「共感力」の強い形態や空間があると思っています。その力を無視せずに、丁寧にコントロールしながら使っていければという想いがあります。光や視線を調整したりする一方で、アーチや家型を採用したりしながら、ひとつの物語を読むような読後感でまとめあげていく。そのような、人が空間を読み込む基本的な要素と、多くの人が共感するイメージを同時に扱いながら組み上げる設計手法に関心をもっています。それは、感性でとらえる部分もたぶんに含みながら、理屈でカチッと来る部分ももたせた空間づくりをすることであり、感性的でありながらも共感力を失わない設計になるのではと思っています。


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