特集/インタビュー1

物語を感じる住まい

——そのような小部屋の配置によってつくられた印象的な場や空間は、どのような意図で設計されたものなのでしょうか。

寳神 この住宅は仕事場を兼用しているので、住み手はこの住宅の中で長い時間を過ごすことになります。そのため、ずっと家にいても飽きないシーンをたくさんつくることが重要だと考えました。その一方で、実際にはひとつの家族が暮らす一軒家ですので、なんらかのルールでまとめる必要があります。大きな規模、多岐にわたる部屋群をなんらかの「意匠的なルール」でまとめようとすると、どうしても意匠上の拘束力が強くなります。ですので、そのようなルールを適用するのではなく、たとえば物語を読み終えたときの読後感のような、決め込まない、やわらかなまとめ方で組み上げたかったという思いがあります。明るいリビング、もっと明るいサンルーム、そして暗い読書室……などと、空間の前後関係における変化を大切にしながら設計することを意図しました。

——小部屋の配置のほかに、どのような工夫が、物語を感じる設計としてなされていますか。

寳神 まず、設計上、各部屋の印象を多様に生み出すためには、光や視線の扱いに不自由をしたくなかったので、開口部のあり方にこだわりました。室内の空間構成を優先して、開口部の寸法やディテールを自由に扱ってしまうと、内部空間の光や視線は効果的になるかもしれませんが、外観や内観の印象が不統一になってしまいますから、ふつうは光や視線だけを重視して窓を配置するのは難しいです。そこで、外観や内観に統一感を与えながらも光や視線を自由に扱える開口部のあり方を考えました。たとえば、入り口の大きな引き戸をはじめ、玄関扉やアトリエの高窓などの建具は、すり出し窓や開き戸、引き戸などと形式も大きさも違うのですが、それぞれを小割りにした単位の大きさや色味を揃えることでモデュールとして、全体を調和させようとしています。こうしたルールにすることによって、内部空間を豊かにする光や視線のために、位置や大きさを自由に計画できることになります。そういった操作により、物語を感じる幅を広くしています。


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