特集/インタビュー1

引き算をしない試み 寳神尚史 ホームページ へ

分棟と小部屋による平面計画

——本日、この住宅「house I」を拝見し、家全体から妙ななつかしさを感じました。私の実家はマンションでしたから、この住宅と私自身の住体験は、まったく別物なのに、なぜか見知った風情が漂っている。今回は、特集テーマである「やわらかなデザイン」という観点でお話をうかがいます。その前に、まずは住み手の家族構成や要望などの与条件から、この住宅の概要を教えてください。

寳神尚史(以下、寳神 この住宅は、東京郊外の住宅街に立つ、夫婦と子どもふたりの4人家族の住まいで、来客用の客室、豊富な蔵書の書庫、そしてご夫婦の仕事場などを併設した、大きな兼用住宅です。ご主人は作家なので、いわば戦場のような仕事場と、家族と共に過ごす心安らぐ住まいとのあいだに、心理的にも視覚的にもできるだけ距離感を与える必要があると考えました。そのため、1棟の大きな建物をつくるのではなく、仕事場と住まいを分棟とし、複数棟で庭を囲むコートヤード形式の平面計画としました。仕事場と住まいに加えて、玄関と客室の棟、書庫や読書室の棟を分けて、計4棟で構成されています。

——4棟に分けられているだけでなく、各棟の間取りも小割りになっていますね。

寳神 寝室や子ども部屋などは用途上の必要最低限の大きさでよいという要望があったのと、奥さまの作業部屋や読書室などの小さなスペースしかとらない部屋が必要でしたので、その結果としてたくさんの小部屋ができました。敷地面積420㎡、延床面積292㎡ほどの広さがある住宅の中に、こうした小部屋をどのように配置するか、そして小部屋を空間としてどのようにつなぐかが、設計の肝となりました。たとえば、作業部屋や台所の配置によって、玄関から、リビング、ダイニングに至る一連の空間を雁行状にずらす構成や、子ども部屋からリビングの吹抜けを見下ろす構成は、いずれも小部屋の配置によってつくられた空間です。雁行状の平面は、空間をゆるやかにつなげながらも個別の場を生み出しますし、吹抜けを見下ろすような、自分の通ってきた動線を見返せる構成が、空間にダイナミズムを生み出すと思っています。


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