特集/対談+ケーススタディ3

小さなスケール感を積み重ねる

根津 それから、畝森さんからもうかがった、スケール感の話があります。たとえば、部屋に置かれた家具の延長上でつくられるような家。大枠から決めていくというより、小さなスケール感が積み重なっていくところに、都市ならではの住宅の基本があると感じていたんです。
 設計していくうえで大きかったのは、ここは防火地域なので、木造2階建てでも準耐火構造が求められたことです。普通、木造で準耐火構造の建物を建てようとすると、柱梁という主要構造部の表面にプラスターボードを張ることになります。そうなると、構造や骨組みの力強さが隠れてしまう。木造で外壁耐火構造とするには、一般の設計者が使える唯一の工法が、「トシゴヤ」で採用した「アイ耐火」という材料でした。それによって、内装を木材の現しにできたわけです。内部の壁や天井は、通常では両面張りするところを、すべて片面だけに張っています。骨と皮という言い方でいくと、部屋のどちらかからは骨の部分が見えています。
 プランに関しては、階段の位置によってそれ以外の部分が決まりますから、なるべく仕切らずに使う。ただ、階を積み重ねるうえでは、2階建てにするというルールと、ロフト階にあたる1.4mの天井高というルールとを組み合わせて、いろいろな使い方ができる隙間を生み出そうとしました。
 もうひとつ、建物はつくり込めばつくり込むほど、そこに住む人が介入する余地がなくなる、建物と住む人の距離が開いてしまう感じがするんですね。設計者が細かく決めていけば、仕上がりは隙のないものになっていくけれども、もうちょっとゆるくて、人がなじんでいけるものに興味がある。住んでいる人の想像力や思いが建物の中に入っていく余地がつくれないか。とくにそれを感じるのは、リノベーションの仕事をするときです。建築家の予想しない状況が起こった場合、既定路線を超えた新しい可能性が生まれることがある。それを生かすのには、設計に懐の深さが求められる。新築でもそうしたものを許容できれば、今までの住居観が変わってくるんじゃないか。それをこの家でも試したくて、ルーズにつくることが魅力になるようなディテールを考えていました。つくり込まない勇気みたいなもので、手つかずのまま残しているところがあります。


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