特集/ケーススタディ2

明度の差で内外の連続を生む 河内一泰 ホームページ へ 河内一泰 ホームページ へ 植木幹也 ホームページ へ 植木茶織 ホームページ へ

——それでは今度は、河内さんの設計された「HOUSE y」の計画について、河内さんに解説をお願いします。 

河内 同じ敷地内での建て替えで、以前と同じ規模の住宅を要望されました。彫刻家の親子の二世帯が入る住宅で、1階の子世帯、2階の親世帯のそれぞれにアトリエをもちます。以前の家は真ん中の部屋に日光が入らず真っ暗で、明るい家がほしいと言われました。それで室内の明るさのことを考えたわけですが、もともと日本の昔の住宅は基本的に暗く、寺院などは明るい庭からの光を受けて仏像の背景がほのかに照らされるという程度でした。そのぶん室内では外への意識が強く、外との距離も近く感じます。一方、現代の住宅では室内が極端に白くされ、外には建て込んだ家同士の暗い隙間があるという逆転現象が生まれています。この家では、外と強い関係をもたせるためにも明暗の両方がほしいと思い、暗いインテリアを目指しました。また、アトリエを前面の道に面して開くことで、街が連続するような住宅にしたいと考えていました。
 計画では、建物の中に必要な部屋を配置し、南北に抜ける3列のボイドを設けています。室内の明度は真ん中が一番暗く、最大に明るい外部とのあいだで明度が連続するように考えました。明度に着目すると、コンクリート打放し面の明度は60(明度は白が100、黒は0)で、打放しに囲われた室内から外を見ると明度の段差が大きく、連続性が失われてしまいます。でも真っ白にすると、室内が外よりも明るく感じてしまう。グレースケールのサンプルを明度順に並べて試し、最終的には85にしました。この明度だと、直射日光が当たると白に近く感じられ、光の届かないところでは黒に近くなります。そのあいだで、明るさはゆるやかに変化するのです。仕上げ材は、質感よりも明度で選ぶというルールを設け、床・壁・天井を同じ明度で統一しています。床のフレキシブルボードは、油性のウレタンクリアを塗ると暗くなってしまうので、浸透しない水性クリアで明るくしました。サッシやシステムキッチン、また外壁のガルバリウム鋼板では既製品のシルバーを使っています。自分としては、いい光の空間ができたなと思います。
 もうひとつ、伸縮する空間という話が出てきましたが、3次元の建築が2次元に感じられる空間にすることを考えています。たとえば、いくつかの風景が重なって見える状況があるときに、立面図に近いイメージでとらえられるといい。天井高が床の幅よりも高くなると、人間は空間を立面で感じるようです。これが逆だと床で空間を感じ、平面で理解する。ヨーロッパの教会のように縦に長い空間は、立面で見ているのですね。この住宅でも天井高を高くすれば奥行きが縮まるような気がして、できるだけ天井高を大きくしています。1階は2.9mで、2階は3.3m。2階のほうが立面が強く感じられますね。1階はスチールサッシの製作寸法の限界から、それほど高くはできなかったのですが。


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>> 「HOUSE y」の断面図を見る
>> 「HOUSE y」の明度についての考察を見る

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Movie 「HOUSE y」

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