特集/ケーススタディ2

日常と非日常をかつての構えの中に

 電車の軌道に向かってかなり急に下っていく傾斜地の一画に弘中邸の敷地がある。前面道路側はもともと高さ2mほどの擁壁となっていて、その上のところが庭になり、住宅が建てられていた。T字路の突き当たりに位置することもあって、擁壁と高みの緑という構えは、地域の人々のあいだに確かな記憶となって残っているという。近所に長く住む横河さんもそのひとりで、同じ場所に新たに住宅を設計するにあたり、この構えを持続させようと強く思ったのは自然なことだろう。住み手がこの地、この住宅で育った人であってみればなおさらである。
 結果として、日常の住まいとしての機能を満たす空間、すなわち玄関、ガレージ、主室(居間)、台所、個室(寝室)、洗面・浴室は、擁壁の内側に半ば地下の空間として設けられ、その上の台地全体が緑化されている。このようにして、かつてあった擁壁と高みの緑という構えが再現されている。
 台地の中央にぽつんと多面体のボリュームがのっている。光沢を放つアルミ板で包まれた、無窓の、正体不明の立体。かわいらしさと奇妙さが同居している不可思議な立体。それは和室(茶室)とアトリエという日常を離れた感覚で使われる空間を内包している。


>> 「弘中邸」の断面詳細図を見る
>> 「弘中邸」の平面図を見る

  • 前へ
  • 2/4
  • →
  • Drawing
  • Profile
  • Data

TOTO通信WEB版が新しくなりました
リニューアルページはこちら