特集/ケーススタディ

屋根をねじる

 この建物は、5年間限定の仮設店舗として計画された。建築の予算は約1500万円。大きかった従前の店舗で使われていた厨房機器などを持ち込むため、床面積は少しでも確保したい。敷地の形状はうなぎの寝床のように細長く、隣には背の高い建物がそびえ、北側道路に接する暗い印象の土地。「空からの光に頼るしかない」と原田さんたちは建物の形を考え続けた。あるとき、アイデアが舞い降りてくる。それが、HP曲面の屋根面をもつユニットを連ねる案であった。スチレンペーパーで模型を一気につくり、構造設計者の佐藤淳さんのところに持ち込み、強度や実現性を確認してもらった。「薄い部材と少ないマテリアルでありながら、ねじることで『形の強度』をもたせることができた」と原田麻魚さん。一つひとつの部材や接合部を強く・大げさにするのではなく、屋根面をねじることで建物全体の強度を高め、しかも構造が薄くなることで、有効床面積を最大化することができた。
 こうしてさまざまな問題が解決できるHP曲面の形は、建て主にすんなりと受け入れられたという。「焼津が海の街、という風土も関係しているでしょうね。船にはさまざまな形がありますし、イカリやスクリューなどの部品も独特の形状をしています。自然科学的な合理性があれば、違和感なく受け入れられるところがあります。私たち自身、無理な形状には違和感がありますし、構造が形をつくるひとつの指針になりました」と原田真宏さん。
 構造材として選んだのは、厚さ3.2㎜の軽量鉄骨。現場での穴あけ加工ができ、この規模ではクレーンがいらず、現場で大工が取りまわせる。柱・梁の門型フレームには100㎜×50㎜の角パイプを使用しているが、正面から見るときの壁や屋根・天井の見付けを薄くし、また床面積を広く確保するように弱軸方向で使用。柱を450㎜間隔で配し、柱同士のつなぎ材としてL字アングルの鋼材を渡して接合した。そこに梁材を架け、現場溶接でつなぎ留めている。梁材は取り付け角度が異なるため、L字アングルのサイズは最大の角度で取り付けられるだけの長さが確保された。
 壁面は断熱材を柱間に入れながら、柱材の内外両側からボードをサンドイッチするように挟み、ビス留めして構成。曲面となる屋根と天井面は、施工業者が数種類のボードを現場に持ち込み、曲面に合わせてしなり具合を試しながら張り付けた。結局、三六版のエフジーボードとケイカル板を組み合わせて、これを構造材に合わせて切りながら施工。こうして留め付けられた屋根面と壁面の外部にはウレタンの塗膜防水を施して、シームレスな仕上がりに。定期的な清掃で美観が保たれるようにしている。なお、ノコギリ屋根の建物では、谷となる筋に水が溜まり漏ってくることが多いが、この建物では屋根面がねじれていることで谷筋に勾配ができるため、水はスムーズに建物の外に流れ落ちる。


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