納谷さんたちは、古い民家やマンション住戸のリノベーションはこれまでいくつか手がけてきたが、築年数がそれほどたっていない戸建て住宅を扱うのは、初めてだったという。「マンションでは、リノベーションを念頭に置いて中古物件を購入することは、選択肢のひとつとして定着したように思います。戸建てでも同じように、建築家に依頼すればなんとかなるという意識が広がってほしい。今回は、街にあふれている建て売り住宅をどれだけ変えることができるかと知恵を振り絞りました。建て売り住宅に対するアンチテーゼとまでは言いませんが、中古物件を購入する方に夢を与えるひとつの例として提示できたのではないでしょうか」と語る納谷さんたち。
それは同時に、保存活用する魅力や長所に乏しいことがある、建て売り住宅という膨大なストックに対して、建築家がかかわる意味を提示したということでもある。
ふたりは、新しいマスクを隙間をもたせて装着するという発想によって確かな感触を得、リノベーションの可能性を広げてみせた。