特集4/ケーススタディ

隙間のあるマスク

 1階のLDKや2階図書コーナーからは、吹抜けを介して景色が目に入ってくる。窓の位置は、既存建物の窓の位置とも調整されており、近隣からの視線は適度に遮りながら外を見通すことができる。1階のインテリアは既存と新築を問わずすべての部屋にわたって白を基調としているが、単調な印象はない。既存部分、とくに階段のあたりから増築部分に向かって徐々に空間が広がり、外へとつながっていく。
 既存の間取りは、水まわりの位置を含めて大幅には変えていない。ただし、1階のトイレを移動して洗面所と一体化し、階段の昇降方向を変えて新設することで、階段部分での開放感が高まっている。
 さらに、納谷さんたちは「テラスや吹抜けを設けながら〝マスク〟を付けることで、新しいことが起こるのではないかと期待しました」と語る。新しいマスクを装着した姿は、外から見るとぴったりとフィットしているが、内側ではじつはところどころに隙間がある。こうした操作によって、単にLDKとしてとらえることのできない多様な生活の場が生まれることとなった。
 1階にあったふたつの個室は、母親のスペースに。一方の部屋にはミニキッチンを設置。もう一方の部屋はテラスを介して台所とつながっている。廊下やトイレ、浴室は共有しているが、玄関に近い場所で、独立したスペースで生活できる。道路側には樹脂サッシを内側から新設して二重サッシに。これは、道路側の交通量が多く、遮音性能を高めるため。同時に、これらの部屋の遮熱性も高めている。
 2階に上がると、フローリングは1階と同材のまま、塗装が黒にされている。建て主の希望もあったというが、これだけで1階とは別の場という感覚が生まれ、プライベート感が増している。プラン上は1階と同じように、既存部分は間取りをそのまま踏襲し、図書スペースとした増築部分で、両側が吹抜けに面する開放的なつくりに。ただし、子ども室や寝室では中庭に通じる小窓もあけられ、吹抜けを介してほかの部屋とのつながりや新たな採光を実現している。子どもの勉強部屋では、壁仕上げに黒板塗装が採用されるなど、遊び心もいっぱいだ。

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