特集3/ケーススタディ

「普通」と「普通でない」の唐突な出会い

 建築家中村勇大さんの設計では、この「普通」と「普通でない」が明瞭に意識され、区分され、そのうえで両者がひとつの器の中で出会う。唐突といってもよいその出会いが、中村さんの設計の魅力であり独自性である。
「此花の長床」(2003)と題された住宅。構法、材料、デザイン。どれも常套的、力点が置かれているところがない。一方、グレーチング敷きの広大なテラス、散在する部屋群、鉄骨の異様に頑丈そうな柱と梁など、住宅の「普通」からあまりに遠く離れていて驚く。
「ST―1/斜めテラスの家」(1999)。こちらも構法、材料、デザイン。どれもきわめて「普通」。しかし、小規模な住宅で、全長73m、床面積の3割を通路(みち)にあて、その大半をスロープとする発想はどうか。立体的に畳み込んだ路地でありこそすれ、いわゆる住宅の範疇をはるかに逸脱しているのではないか。
 中村さんは、「普通」の領分ではそれを尊重し、無理強いをせず、一方「普通でない」領分では、最適と思われる解を妥協を排して実行する。「普通」と「普通でない」の混合や癒着を、決して許さない。
「さやどう」と名づけられた住宅でも、その本領が十分に発揮されている。

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