特集1/エッセイ

 空間は小さいが密度は高い。それははっきりしている。だが、これほどわずかなことでこれほど多くのことを達成できること、既存のものに対する敬意が、ものに新たな尊厳を与えられること、そして新たに生まれたものが完全な独自性をもつこと、こういうことを知ると心が穏やかになる。新しいもののみを考えることに対する誘惑は大きく、そのほうがはるかにやさしい。だが、既存のものが必然的に伴っている強制、なんとしてもこうせねばならないと思わせるもののなかには、新しいものを少しでも多く「定着させる」糸口を見出すための機会が、すなわち、物事に深みを与える希望が含まれている。つまり建物とともに小さな物語を語り、利便性や技術的な可能性以外にも建物に意味を与える、という希望が含まれているのだ。完成品が大きなものである必要はない。小さな建物にも意味を見出すことは重要であり、それには勇気と時間が必要だ。物事を本当に理解することを学ぶための時間と、単なる機能面での課題が一見して求める以上に、物事を深く考える勇気が。そして、まさにまったく「月並み」な、あるいは日常的な建築の使命においてこそ、それは必要なのだ。物事の価値を認識し、それを人々に読み取れるようにできるか否かは、私たちの手にかかっている。われに正しき手段を与えたまえ。

  • 前へ
  • 5/5
  • Drawing
  • Profile
  • Data

TOTO通信WEB版が新しくなりました
リニューアルページはこちら