特集1/エッセイ

 その建物に再び息吹を与えるため、まず手はじめに「オリジナル」でないものをすべて取り去った。ただし、オリジナルという言葉は注意して使う必要がある。豚小屋として機能していたときにも、建物はいくつかの変化を経ているし、第2次世界大戦が、建物にその痕跡を残していた。建物の外壁の一部が残り、屋根はなく、石でできた壁は欠けていた。古い外殻に空間を与え、ひとつの共生の形として新たなものをつくり出そうというのが、新しい建築の基本的なアイデアだった。家の中に木箱を挿入し、家の形を補うのだ。
 独立した木の家を設計し、それを服の裏地のように精密に古い外壁の中に挿入する。既存の建物のどこにも触れることなく、新しいものがピッタリと納まるよう、既存のものを尊重しつつ設計した。工場で前もってふたつの小さな家をつくり、完璧に完成させたかさばる物体(Volumen)を、クレーンを使って慎重に古い外壁の中に――かつて豚を飼育していた部分にひとつの家(そのため飼料置き場の屋根裏部屋は撤去した)、また、かつて家畜番用だった部分にもうひとつの家を――差し込んだ。新旧ふたつの建築物を隔てているのは、わずか8cmほどの隙間だが、それは重要であり、訪れた人に状況を理解してもらうために必要なものだ。理解を得るのはどこで? 入り口のところだ。訪れた人は新築された内部へいわゆる「狭間」を抜けて入ることになる。ここには、古い石の外壁と新たな木の内壁とのあいだに、ふたつの「時」の隔たりが広がっている。訪問者はまず外壁の入り口を抜けてこの「狭間」に入り込み、内部の木壁に向き合うことになる。そしてさらにそこにある入り口を抜けて室内に入るのだ。外側から見れば、内側にもう1枚木の壁が存在するとはわからない造りだが、中に入れば逆に外壁があることはわかりづらい。木製の内壁が圧倒的な印象を与え、以前からあった石の外壁は窓の開口部の縁にしか見えない。以前にあったものが否定されているのか? とんでもない。訪れる人が前にする窓は、普通に考えるとまちがった場所にある。よくある高さにはなく、よくある比率にもなっていない。そんななかで疑問がわく。外を見ようとして、なぜひざまずかなければならないのか、なぜ爪先立たなければならないのか。窓はかつての機能、飼料扉と豚たちの出入り口、そして飼料置き場の穴を復刻させたものだ。すると、さっき通り抜けたばかりの狭間を思い出しながら、この家を訪れる人の心に、ゆっくりと家の歴史に対する思いが生まれてくる。
 大切なのは事実を知ることではなく、その家が何年に建築されたかではなく、ひとつの建物が経ることのできる変遷について知ることだ。そのようにして、多面的に読み取ることのできる建物――現在必要とされるさまざまな機能を満たすだけではなく、単なる想像の産物でもなく、むしろ物事の足どりを図解してくれる建物――が生まれる。古いものが新しい顔を得て、新たなものとの関係のなかで、復元ではなく、無から生じた新たな発明でもなく、独自にとらえられる第3のものをつくり出していく。

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