
「すでにそこにあるごく普通の建物」をどのように「引き受ける」か。
その発想次第で住宅リノベーションはもっとおもしろくなるのでは、という思いで増改築特集を組んでみました。
中にはめ込んだり、外からかぶせたり、結果として入れ籠構造的な実例が多くなりましたが、どれも新・旧のスキマ空間の魅力、スキマが全体に与える影響力が印象的でした。
中村勇大さん設計の「さやどう」もそのひとつ。鉄骨造天井面と既存小屋組との1m程度のスキマ。機能的な役割はほとんどありませんが(天井のクロス張り作業では役立ったとのこと)、天窓からの光の反射拡散作用と相まって、吸い込まれるような濃密な余白がつくられていました。
ちなみに「さやどう」には、もうひとつ忘れがたいものがあります。それは外壁に埋め込むように設置された小便器。農家における外トイレは珍しくはありませんが、その主たる設置理由を「古い家の時代から近所の人に貸してあげていたので」とおっしゃるご主人。なにもそこまで考えなくても……という感じはします。でも中村さんは何事もなかったかのように、ご主人の意向どおりかつての玄関脇の外トイレを再現しつつ、むき出しの小便器を外観デザインに溶け込ませていました。
風景が一変した敷地のなかで、地域の人とのちょっとしたコミュニケーションを引き継いだ小便器。こういうさりげない「既存の引き受け方」も気持ちいいものです。
せっかくですから、お借りして。
奥行きが便器込み600mm程度のスペースは、露天トイレに近いおおらかさでした。




