インディテール

倉俣史朗の美容室「カクティ」

1979年、時を超えた美容室があった

 美容室を特集するにあたって行きついたのは、やはり倉俣史朗さんだった。残念ながら本誌では割愛せざるをえなかったのでここでひと言。
  1979年、すでにしてあの新鮮な空間「カクティ」(東京・乃木坂)があったことは忘れられない。
  当時クラマタデザイン事務所で現場を担当したインテリアデザイナーの近藤康夫さんに話をうかがった。
  倉俣さんが意図したことはなんだったか。
「倉俣さんは、空間はニュートラルでありたい」「何もなくていい」と言いつづけていたという。そこから割り出されたのが単色の壁、床、天井。裸の鏡。鏡も消そうとする心だったのだろう。空間は白、透明、反射だけの世界。
  熱をかけて曲げられ逆U字に立った鏡は2枚構成。頂上で2枚の12㎜厚ガラスは出会う。接着剤でつなぎながら、つなぎを見せたくないとがんばる。足下はシリコンにガラスを埋め込み、床仕上げはその後。その結果、ガラスはすっきりと床から立ち上がる。
  鏡の木口が力学的に開こうとするのは三保谷硝子の技術が押さえて完成した、と。見えないディテールが完成度を高めた。
  美しいものは時代の香りを保っている。ここにはあの時代の美意識の最良の空間があった。勝手ながらそう言わせてもらう。倉俣さんは現代アートへの興味が強くあったらしい。三木富雄、田中信太郎さんたちの活動は大いに刺激になっていたという。

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