TOTO
パビリオン・トウキョウ2021 出展者インタビュー
1.建築家・藤本壮介氏インタビュー(前編)
2021/7/27
※本インタビューは、新型コロナウイルス感染拡大による、開催延期決定前の2020年3月に収録されました。

 「一見ありそうで、人びとがなかなか思いつかない抽象的な空間を創り出す。私たちはそこに入ることで、それが他の空間とどのように異なるのか、気がつくことができるのです」。Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13「パビリオン・トウキョウ2021」実行委員長で、企画・キュレーションを担うワタリウム美術館の和多利恵津子館長は、建築家の藤本壮介さんに注目する。藤本さんに構想を聞いた。
―― 今回の企画をどのように思いましたか。
藤本 10年前に初めての個展を開いたのがワタリウム美術館(東京都渋谷区)でした。それ以降も、さまざまな形で交流があった和多利館長から持ち掛けられた企画でもあり、確実に面白くなるだろうと思いました。
―― どのようなところに面白さを感じましたか。
藤本 東京が持つポテンシャルや面白さといったものを、建築家や芸術家の視点から、示すことができるのではないかと考えました。この企画の参加者として候補に挙がっていた建築家は、皆、尊敬する方ばかりです。ぜひ僕も参加したいと思うと同時に、皆で一緒に新しいエネルギーを東京から発信できる機会なのではないかと思いました。
―― 東京とパリを拠点に活動していらっしゃる藤本さんにとって、東京の面白さを、どのようなところに見出していますか。
藤本 非常に巨大な都市でありながら、同時にヒューマンスケールで構築されているところにあると考えます。巨大なところと、ヒューマンなところが同居しているという意味で、唯一無二の街だと思うのです。当然、自分はその一部となって、建築家として活動しているので、もはやあまり客観視できる状態ではありませんが。ただ、自分の建築の考え方は、東京が持っている特性に通じています。
―― 「ヒューマンなところ」とは、具体的にどのようなときに感じますか。
藤本 東京を歩いていると、いろいろなものの小ささを実感します。例えば家も小さいのですが、その前には植木鉢が置いてあったり、自転車が停めてあったりする。あるいは、そこに掛かっている看板も含め、すべてが人間のスケールに収まっています。
―― それが、巨大な都市に存在しているということですか。
藤本 一つひとつは小さいのですが、それが集積していくと、巨大なものになっていくということに不思議な感じを抱きます。つまり、ところどころに都市的な大きな身振りがあるのですが、個々の小さな成り立ちが、そのほかの小さな成り立ちと相互作用して街の活気をつくり出していくような感じがしています。
―― 藤本さんがもうひとつの拠点を構えるパリは異なるのでしょうか。
藤本 パリでは、エッフェル塔や凱旋門という大きな建造物がある。そういう都市の一部がパリという街を象徴していますが、東京では、街の一部ではなく、むしろそこに生きている人が、街を象徴しているように思うのです。
―― そのような特徴は、東京のどのようなところに表れているのでしょうか。
藤本 例えば渋谷のスクランブル交差点。大勢の人がわーっと押し寄せることで、そこが唯一無二の風景となっている。国立競技場やワタリウム美術館からも近い表参道も同様でしょう。道としても素晴らしいのですが、むしろ、そこに集う(流行に敏感な)人びとが、東京らしさを象徴しているともいえます。だから東京の街というのは、建築など都市的な要素というよりも、人で成り立っているというような感覚があります。それが、ヒューマンスケールの小さなものが、わちゃわちゃと都市空間をつくっているという特徴につながっているという気がするのです。
―― 最近は、都心に高層ビル群が増えてきて、小さなものが姿を消しつつあるのではないか、という危惧を抱きますが、藤本さんは、どのように見ていますか。
藤本 大規模な都市開発においても、東京特有の小ささといったものが、インスピレーションのひとつになってもいいのではないかと思います。
大きなものと小さなものは相反する訳ではなく、それぞれが互いを引き立て合ったり、混ざり合ったりして、両方が持っている価値観がうまく共存しています。
これから、特に東京で大きな開発が行われるときは、ある種の都市的な大きさは必要だと考えていますが、そこにヒューマンな何かが表れていると、非常に面白くなるのではないかと思っています。
―― 今回の企画「パビリオン・トウキョウ2021」においても、その特性が見られるということでしょうか。
藤本 今回も、ある種小さな建築、小さな場所となるパビリオンを都内各地に配置し、そこから何かを発信していこうというのは、非常に東京的な発想だと受け止めました。例えば、新しい都市空間や、人とのコミュニケーションというものを発信できるのは、東京ならではのことではないかと考えるのです。つまりこの企画は、まさに今、東京が求めていることに通じるのではないかと考えました。
(聞き手、執筆、写真:共同通信記者 高橋夕季)
 
藤本壮介 Sou Fujimoto
1971年生。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年に藤本壮介建築設計事務所を設立。主な作品に〈武蔵 美術大学美術館・図書館〉、ロンドンの〈サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013〉、フランス モンペリエの〈L’Arbre Blanc〉、最新作〈白井屋ホテル〉など。2014年フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞、2015年パリ・サクレー・エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター国際設計競技最優秀 につぎ、2016年Reinventer.paris国際設計競技ポルトマイヨ・パーシング地区最優秀賞を受賞。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の会場デザインプロデューサーを務める。
高橋夕季 Yuki Takahashi
共同通信記者。国際基督教大学卒業後、共同通信社入社。文化部で音楽、演劇などの担当を経て、美術や建築を担当。
シリーズアーカイブ
※本インタビューは、新型コロナウイルス感染拡大による、開催延期決定前の2020年3月末に収録されました。

世界的に注目される建築家のひとり、藤本壮介さん。拠点を置く東京とパリを比較しながら、東京という街と、パビリオンとの関係性が語られています。
提供:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
※本インタビューは、新型コロナウイルス感染拡大による、開催延期決定前の2020年3月末に収録されました。

「雲」を、パビリオンのモチーフとした背景や、そこに込められた期待などが、語られています。