TOTO
パビリオン・トウキョウ2020 出展者インタビュー
1.建築家・平田晃久氏インタビュー(前編)
2019/10/25
 【オリンピック・パラリンピック東京大会の行われる2020年を盛り上げようと、ホスト都市の東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京が実施する文化プログラム「Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13」。公募で選ばれた13件の企画のひとつ「パビリオン・トウキョウ2020」(実行委員長:隈研吾氏、和多利恵津子氏)は、世界的に評価が高い日本の建築に光を当てるプロジェクトだ。若手を中心とする日本人建築家やアーティストら7人ほどが、都内に複数の小さい仮設建築を展開する。公開は2020年6月6日~9月13日を予定している。
 今回は参加する建築家のひとりで、初めて手掛けた公共建築「太田市美術館・図書館」(群馬県)が昨年の村野藤吾賞を受賞するなど活躍が目覚ましい平田晃久さんに話を聞いた】
建築家・平田晃久氏
―― 今回の企画を聞いた時にどう思いましたか。
平田 1964年の東京オリンピックは代々木体育館を手掛けた丹下健三さんをはじめ建築家が活躍したイメージがありますが、今回は新国立競技場を除くと建築家が出る幕があまりなく、さびしく思っていました。そんな折、和多利恵津子(ワタリウム美術館館長)さんから「東京はこんなに面白いところだとみんなに感じてほしい」と企画の趣旨を聞いて、とても共感したし、参加依頼を光栄にも思いました。
【平田さんの提案は題して「Global Bowl」(グローバル・ボウル)。巨大なお碗型の構造物で、まるでクラインの壺のように表と裏が複雑につながっている。設置場所は人の集まる交差点近くを想定している】
―― 楽しい形ですね。着想源は何ですか。
平田 オリンピックには世界中から大勢の人が東京にやってきます。建築の力でそれをひとつの「風景」にできないか。つまり期間中は国籍も肌の色も服装もさまざまな人びとが非常に高い密度で1カ所に集まる瞬間が起こり得るわけですが、そうしたエキサイティングな状況が見える建築ができたら面白いと思いました。あと、競技場もボウルと言いますよね。パビリオンはスケールで競技場には及ばないけれど、逆に小さいからこそ、いろいろな人間がギュッと集まり、エネルギーが凝縮された感じが一層カラフルに見えるかもしれない。オリンピックのごった煮感や異質なものが混ざり合う状況が目で捉えられるのではないかと。

「グローバル・ボウル(仮題)」
(提供:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京)

―― パビリオンは中に入れるのですか。
平田 入れるようにする予定です。中を歩いたり、ベンチのように座ることもできるように検討しています。最初は一部登れることも想定したんですが、それは安全管理上難しいみたいで。
―― どれ位の大きさを予定していますか。
平田 希望としては直径20m、高さ5mを考えていますが、もう少しギュッと小ぶりなものになるかも。あまりチマチマせず、周囲の木や風景も中に入ってくるような大らかなものにしたいと思っています。
―― 素材は何ですか。
平田 木を考えています。3次元カットした部材を現場で組み立てる予定です。伝統建築の印象が強い木を最新の立体加工技術による有機的な造形物にすることで、テクノロジーと自然、都市が一体化した感じが出せれば。僕は現代のテクノロジーは自然やノイズ(夾雑物)を含んだ状態へ近付いたり、異質なもの同士の混合を形にしたりする方向性にあると考えています。今はコンピューターを使えばさまざまな要素が融合でき、20世紀の工学に基づいたシャープさとは異なる、自然に近い建築ができるのではないか。日ごろのそうした考えをパビリオンは形にする狙いもあります。
―― 東京のTOTOギャラリー・間が開催した個展(平田晃久展 Discovering New、2018年5月24日~7月15日)でも、木の立体加工によるモックアップ(原寸大の部分模型)を展示していましたね。

TOTOギャラリー・間「平田晃久展 Discovering New」
©Nacása & Partners Inc.

平田 あれは小さかったけれど今回は実際に使えるものを屋外に実現します。システムは似ていますね。ネットワークをねじれた幾何学で結ぶことで構造をつくる考え方。
―― あの時は骨の内部構造にヒントを得たと話していました。
平田 骨の中には強度をもたらす綿のような構造があり、余分なものを取り除くとネットワークに近い形になる。でも木は基本真っすぐだし、軸のある方向に強いので、ネットワークのような編み目様の構造物をつくろうとすると、強い方向を入れ替えながら部材をつくる必要があります。切り出しを工夫して、立体的にカチッと部材をジョイントできれば、強度がある木の構造が出来るんです。
―― 木の立体加工はスイスやドイツが進んでいると聞いたのですが、日本でも可能なんですか。
平田 はい、つくれます。木構造の開発に取り組んでいる会社があり、工場でプレカットした部材を現場で組み立てる技術にたけています。その会社の協力でTOTOギャラリー・間の模型を制作して頂いたんですが、もっと規模を大きくしても大丈夫だと分かったので、今回チャレンジします。
―― これまでの平田さんの建築は木のイメージはありませんでした。
平田 ちょうど今、熊本県八代市で「八代民俗伝統芸能伝承館」(仮称)の設計をやっていまして。国の重要無形文化財に指定されている妙見祭を守り育てるための施設なんですが、屋根は地元産の木材を使ったうねりがある形になります。ちょっと神社や寺院の屋根みたいな伝統的な感じもするんですが、実現するために最新の3D技術を使っています(同館は21年春完成予定)。
【「パビリオン・トウキョウ2020」の各パビリオンは新国立競技場からおよそ半径約3km以内に設置される。平田さんの作品は人の集まる交差点近くを想定している】
―― なぜ交差点なんですか。
平田 そのような場所のもっている力が街の活力を誘発してきた部分があると思うんですね。例えば大勢の人が粒子のように行き交う交差点を眺めていると、まるでひとつの自然のような生命力を感じるし、僕自身も元気が出てくるんです。
―― 平田さんは関西出身ですね。都市としての東京の魅力はどこに感じますか。
平田 やはり地形との関係が面白いと思います。おおざっぱに言うと東側は平らで、西側は山や丘陵がある。それが江戸時代に部分的に埋めたてたり、土を盛ったりと人間の手が加わり、近代以降はあらゆる種類の建物やビルが表面に堆積してきた。例えば赤坂は高台に行くほど建物が高くなる傾向があり、凸凹した地形が余計に強調されている。視点を変えて上から俯瞰してみると、本来の地形と人工物が入り交じった複雑で豊かな風景が広がっていて、非常に魅力的だと思いますね。もちろん美醜で言えば凡庸な建物もいっぱいあるけれど、例えば空と地上を気ままに行き来するカラスの目で見たら、とても楽しくていい街なんじゃないかな。どこか野生の本能を引き寄せる部分が東京にはあって、そこが僕にはとても興味深い。「均質化されてつまらなくなった」という人もいますが、世界の都市と比べても歴史や経済による奇妙な堆積が目に見える東京の街は面白いですよ。
―― 「カラスの目」から見る東京ですか。
平田 もしかすると僕が建築で目指している快楽性は、カラスが東京の街で味わっている感覚に近いのかもしれない。結構地面スレスレに飛んできますよ、やつらは。僕は多分、鳥とか昆虫のような視線で街を観察しているんです。子どもの時に住んでいた場所が自然の生物は昆虫くらいしかいなかったから。虎とか大型の野生動物が身近だったら、また違う視線をもてたかもしれませんが(笑)。
(聞き手、執筆:毎日新聞学芸部編集委員 永田晶子)
 
平田晃久 Akihisa Hirata
1971 年生。京都大学大学院修了。伊東豊雄建築設計事務所を経て2005 年に平田晃久建築設計事務所設立。現在京都大学教授。人々の活動や周囲の環境と建築との関わりを重視した、生き物のような形態の建築を生み出している。主な作品に〈Kotoriku〉、〈太田市美術館・図書館〉など。第19 回JIA 新人賞、Elita Design Award、第13 回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞(日本館)、日本建築設計 学会賞、村野藤吾賞など受賞多数。2016 年にニューヨーク近代美術館の"Japanese Constellation" 展に参加。
永田晶子 Nagata Akiko
毎日新聞学芸部編集委員。早稲田大学第一文学部美術史学科卒。1988年に毎日新聞社入社。生活家庭部副部長、日曜版編集長などを経て現職。主に美術や建築、デザイン分野を取材する。「平成史全記録」(毎日新聞出版)などに寄稿。
シリーズアーカイブ
インタビューおふたり目は、初めて手掛けた公共建築「太田市美術館・図書館」が昨年の村野藤吾賞を受賞するなど、活躍が目覚ましい平田晃久さんです。パビリオンへの着想や現時点で検討していることなどが語られています。
インタビュー後編では、パビリオンの設計にこめられた思いが語られています。「太田市美術館・図書館」の解説を絡めながら、平田氏の建築観もあぶり出されています。