ルイス・カーンといえば、まず頭に思い浮かべるのが、キンベル美術館やソーク生物学研究所など、端正なコンクリート建築ではないでしょうか? けれども、その一方で、カーンが20代の若きドラフトマン時代から住宅設計に熱心に取り組み、計画案も含めると50近くもの住宅プロジェクトを手がけていたことはあまり知られていません。個人住宅では20、そのうち実際に建ったのは9作品でした。カーンは1974年に亡くなるまで、どんなに大プロジェクトを抱えていようと、どんなに多忙をきわめようと、住宅の仕事を断らなかったといわれています。ルイス・カーンにとって、住宅とは何だったのか――その問いがこの本をつくるきっかけでした。現存するカーンの住宅をすべて訪ね、写真を撮り、施主と話をし、母校ペンシルベニア大学で図面を調べました。そこで見えてきたのは、住宅設計がカーンの設計アプローチを築きあげてきた原点であり、彼の全作品の根本となっていることでした。この本では1940年の個人住宅の処女作から、最晩年の全住宅を紹介しています。30年以上にわたる彼の住宅への設計アプローチを通してみることで、私自身、カーンを巡る旅をいま終えた気分でいるところです。――齋藤 裕
Louis I. Kahn(ルイス・カーン/建築家)略歴
1920-24
ペンシルベニア大学美術学部で学ぶ(1924年に建築学士号)
1921-33
在学中よりドラフトマン、のちにデザイナーとして設計事務所で働く。
1933-35
フィラデルフィア都市計画委員会の住宅供給研究におけるチーム主任を務める。
1935-37
ワシントンD.C. 再定住管理局の助役建築家を務める。
1941-42
ジョージ・ハウ、オスカー・ストロノフと共同事務所を開設
1942-47
オスカー・ストロノフと共同事務所を運営
1947
ストロノフとの協働関係を解消し、独立した事務所を構える。
イエール大学設計の批評主任
1950-51
アメリカン・アカデミーの駐在建築家としてローマに3ヶ月滞在する。
エジプトとギリシャに旅行
1961
ニューヨーク近代美術館にて、リチャーズ医学研究棟の展覧会
1971
アメリカ建築家協会よりゴールド・メダルを受賞
1972
王立英国建築家協会よりゴールド・メダルを受賞
1974
3月17日、インドアーメダーバードからの帰国途中、ニューヨークのペンシルベニア駅で心臓発作のため死去