• 7. ユニットバスルームと洗面化粧台の始まりと進化-快適な暮らしの追求
  • プロローグ 量の時代に生まれた2つの製品
  • 日本は終戦後20年足らずの短期間で、急激な経済成長を遂げた。ホテルや住宅が大量に建設された1960年代、この時代に生まれたユニットバスルームと洗面化粧台が、暮らしを見つめ、水まわり空間に定着していく過程をたどる。
  • 7 ユニットバスルームと洗面化粧台の始まりと進化 ─快適な暮らしの追求
  • TOTOが、長年にわたって水まわりの常識に挑戦し続けた結果、気がつけば、ユニットバスルームも洗面化粧台も当たり前のものとなり、日本特有の「浴室文化」と「洗面文化」といえるまでに定着した。既成概念にとらわれず、豊かな暮らしをこれからも追求していく。
  • 第1章 ユニットバスルーム開発の原点
  • 工期短縮への挑戦
  • 1964(昭和39)年の東京オリンピック開催は、国際舞台への復帰を世界に向けてアピールする絶好の機会と捉えられており、スポーツ関連施設のほか、海外からの観光客を受け入れるためのホテル建設も進められていた。日本初の超高層ホテルであるホテルニューオータニの建設が決まったのは、オリンピックを翌年に控えた1963(昭和38)年1月であった。建設ラッシュで人手不足のうえに、本来なら3年かかるといわれる工期も17カ月しか無いという非常に厳しい状況の中、工期短縮に当たって大きな課題となったのは、浴室をはじめとする水まわり工事であった。設計・施工に当たっていた大成建設株式会社では、新しい工法案をメーカー数社に依頼、そのうちの1社がTOTOであった。
  • 第2章 初代ユニットバスルーム誕生
  • 膨大な要件を検証し、新しい工法を開発
  • この依頼を受け、TOTOでは1963(昭和38)年7月に開発プロジェクトを発足。茅ヶ崎工場(神奈川県)を中心に膨大な要件の検証を続けた結果、現場での工程を簡略化するために、あらかじめ工場で組み立ててユニットとして搬入する「セミキュービック方式」を開発した。また、軽量化して搬入を容易にするため、FRP(繊維強化プラスチック)を浴槽と洗面カウンターに展開。従来は2トン超の浴室の重量を730kg程度まで削減した。こうした工夫と努力の結果、従来の在来工法では1室当たり3週間~1カ月必要な工期を、わずか3~5日(組み立て1日)に短縮することに成功。1963(昭和38)年12月、1044室にユニットバスルームの正式採用が決定した。1044室の浴室工事を、大成建設株式会社、株式会社西原衛生工業所の協力を得て、工場製作から現場設置工事まで含めて約3ヵ月半で完了。こうして“初代ユニットバスルーム”が誕生したのである。施工性の高さだけでなく、メンテナンス性や、防水性、優れたデザイン性は、建築業界から広く注目を浴びることとなった。
  • ホテルニューオータニ施工例
  • 工事の省力だけでなく、メンテナンスも簡単で何よりも見た目が綺麗であると評判に
  • 第3章 洗面化粧台の原点
  • 洗面スペースに登場したもうひとつのユニット商品
  • 1966(昭和41)年、住宅の水まわり空間において、新たなユニット商品が誕生する。それが、洗面ユニットである。伝統的な日本の家屋には洗面スペースというものが存在せず、洗面や歯磨きなどは台所の流しで行われることが一般的だった。その後、1955(昭和30)年に日本住宅公団(現 都市再生機構)が設立されると、初期の公団住宅で壁掛洗面器が採用されるようになったが、壁への固定や給排水管の壁面への埋め込みなど大きな手間がかかっていた。そこで日本住宅公団は木製キャビネットの上に洗面器を固定した床置きの洗面ユニット方式へと変更。TOTOが、その要請を受けて開発・納入したのが洗面ユニット(JLU66)であり、現在の洗面化粧台の原型となった製品である。
  • 洗面ユニット(JLU66)
  • 人々の住まいの変化に応じ、洗面ユニットが開発された
  • 第4章 洗面化粧台の誕生
  • 商品としての魅力を追求した洗面化粧台
  • TOTOは同時に公団仕様の洗面ユニットをベースに、一般住宅向けの商品開発を開始。1968(昭和43)年1月、カウンターや湯水混合栓を付加し、カラーやデザインに変化をつけて、商品としての魅力を向上させた「洗面化粧台」を発売した。洗面化粧台は住宅需要の波に乗り、収納性や現代的なデザインが好感されて、順調に販売を伸ばしていった。また、1975(昭和50)年には著名ファッションデザイナーのピエール・カルダン氏のデザインによる「カルダン洗面化粧台」を発売。斬新なデザインが市場にインパクトを与え、当時としては異例のヒットとなった。
  • 1968年発売の洗面化粧台 カルダン洗面化粧台
  • 商品としての魅力を向上させた「洗面化粧台」は、住宅需要の波に乗り、収納性や現代的なデザインが好感されて順調に販売を伸ばした
  • 第5章 マーケティングからの発想
  • 洗髪ができる洗面化粧台、シャンプードレッサー開発
  • 1980年代に入ると国内市場の成熟化とお客様の要望の多様化が進み、洗面化粧台は他社との差別化が命題となってくる。自宅に洗面化粧台のある主婦を対象とした調査を実施したところ、洗顔や歯磨きだけでなく、実際には洗髪や洗濯といった、これまで明確に認識していなかったニーズが生じていることが分かった。とくに女性の平均洗髪回数が増加していること、着衣のまま洗髪した経験を持つ人が増えていることを確認。こうして「服を着たまま洗髪できる洗面化粧台」の開発に踏み切った。そして1985(昭和60)年、洗髪という新たな機能を付加した初代「シャンプードレッサー」を発売した。その後、「洗髪できる洗面化粧台」は広く知られるようになり、若い女性が通学や通勤前に洗髪する「朝シャン」(朝のシャンプー)をブームに押し上げていく。
  • 初代シャンプードレッサー シャンプードレッサー「クリアシリーズ」
  • 洗顔や歯磨きだけでなく、「洗髪」というニーズに応えた“シャンプードレッサー”は「朝シャン」ブームの火付け役に
  • 第6章 洗面空間の確立
  • 洗面化粧台の多彩な用途と機能
  • バブル経済期になると、洗面空間の機能に変化が現れていった。入浴前後の衣服を脱ぎ着する場所であり、それまで屋外に置かれていた洗濯機を洗面所に移して、洗濯をする場所にもなった。朝の身づくろいを含めた、家庭における水まわり機能の集約化、一体化が進んでいったのである。こうした動向を踏まえてTOTOは1995(平成7)年、洗濯作業の向上を狙って「ランドリードレッサー」を発売。他社に先駆けて搭載した壁付水栓により、洗面ボウルは広く使えるようになり、洗面ボウル下部のキャビネットは、収納力が強化された。こうして次第に洗面空間が確立され、多彩な目的を持つ場所となったことから、洗面化粧台にはさまざまな用途を満足させるための多機能性が求められていくこととなった。
  • ランドリードレッサー
  • 第7章 システムバスルームの登場
  • 選べる戸建住宅向けユニットバスルームの開発
  • 初代シャンプードレッサー発売と同じ1985(昭和60)年、ユニットバスルームの出荷台数は毎月1万台を超え、年率150%の伸びを記録した。1988(昭和63)年には、戸建住宅向けに床や壁の色や素材のほか、浴槽やシャワーなどの器具類に至るまで豊富なバリエーションを用意し、お客様がオーダーメード感覚で選べるユニットバスルームを発売した。画一的な大量生産の時代から個性を重視する時代への転換期に、戸建住宅に適した商品開発を実現したのである。
  • オーダーメード感覚で選べるユニットバスルーム、フローピアシリーズのポスター(上)とカタログ(右)
  • 第8章 ユニットバスルーム業界に一大旋風
  • 常識を変えた「カラリ床® 」
  • 2001(平成13)年、新世紀の到来とともにTOTOの浴室では、従来の常識に挑戦した新商品が続々と登場する。その先鋒となったのが、ユニットバスルームの業界に一大旋風を巻き起こした「カラリ床® 」である。「ユニットバスルームは床が乾きにくい」というお客様の声をきっかけに「当たり前」を覆す「乾きやすい床」への挑戦は始まった。様々な試行錯誤の果てに行き着いたのが「水を速く流すのではなく、少量の水をあえて停滞させ、その水を使って大きな水滴の表面張力を壊しながら溝に引き込み、ゆっくり確実に排水させる」という新たな排水手法と、それを成し得る理想の溝パターンである。翌朝には靴下で入れるほどカラリと乾く「カラリ床® 」の誕生であった。カラリ床®は史上過去に例の無いヒットとなり、瞬く間にユニットバスルーム各社の「当たり前」となった。
  • フローピアKVシリーズ カラリ床® 表面張力を壊し、確実に排水するメカニズム
  • ユニットバスルームの床は乾きにくい。そんな常識を覆す乾きやすい床、カラリ床®なら、翌朝には靴下で入れるほど
  • 第9章 開発・生産の最適化による体質強化
  • 「魔法びん浴槽®」とたゆまざる革新の成果
  • カラリ床®に続いて2004(平成16)年には、6時間経っても湯温低下はわずか2℃以内(従来品は約1.5時間で2℃低下)、という良好な保温性能を有する「魔法びん浴槽® 」を開発。後に高断熱浴槽に関する国の標準規格のベースになるほどの業界スタンダードとなった。2012(平成24)年、新商品投入のスピードアップとさらなる生産性の改善という命題のため、床構造のプラットフォーム化を実施する。その実現に当たり「戸建住宅用」「新築マンション用」「マンションのリモデル用」などの主力商品に関しては基本構造を統合することとした。実質的なコストを抑えるのはもちろんのこと、開発のパワーを集中させることで、さらに新しい価値を生み出す活動へとシフトできる体制を整えた。
  • 魔法びん浴槽® 魔法びん浴槽®の保温性能
  • 6時間経っても湯温低下はわずか2℃以内という良好な保温性能を有する「魔法びん浴槽®」
  • 第10章 エピローグ
  • 日本発の水まわり文化発信へ
  • 1964(昭和39)年にホテルニューオータニへ納入したことから始まったユニットバスルームは、日本の住宅へ受け入れられ、高い快適性と環境性能を実現するものとして大きく進化し、水まわりの生活文化に変化をもたらした。そして現在、日本の浴室市場におけるユニット化率は約90%(2017年現在)にまで達している。これまでを振り返れば、TOTOにあるのは、世の中を変えるほどの商品を一番に出し続けていきたいという想いであり、その「開発力」こそが先輩たちから受け継いできたものといえる。日本で独自の発展を遂げた「浴室空間」「洗面空間」で培ったさまざまな技術・文化を、「トイレ空間」で築いてきたTOTOのブランド力を活かしながら、どのように海外の製品へ展開・発信していくのか、海外の常識に対する挑戦は始まったばかりである。
  • 現在の浴室空間(右/シンラ)と洗面空間(左下/エスクア)中国など海外で提案している空間(左上)
  • 「開発力」を武器に「水まわり文化」を海外に向けて発信していく