• 4.進化する水栓 ─ 水の力を活かし、生活を変える
  • プロローグ 日本人の憧れだったシャワーのある暮らし
  • 1960年代までの住宅における給湯環境は、台所はガス小型湯沸器、内風呂はガス風呂釡、と別々に分かれているのが一般的であった。この当時日本人の羨望の的となったのは、欧米の映画やテレビドラマに登場するような、セントラルヒーティング完備の家に住んで、蛇口やシャワーのお湯をふんだんに使うという生活スタイルであった。それはまさに豊かさの象徴で、いつでも手軽に汗を流したり洗髪ができるシャワーには、高度経済成長を成し遂げ、住宅供給に一息ついた日本における、次なる住環境ステップアップの目標として、普及の期待が高まっていった。
  • 当時の欧米の水まわり空間
  • プロローグ 日本人の憧れだったシャワーのある暮らし
  • 住宅用シャワー金具への挑戦
  • 住宅用に先駆け、日本でシャワーの導入が進められたのはホテルであった。ここで、シャワーには欠かせない、お湯と水を混ぜて使用する混合栓の技術が発展し、現在使われている、2ハンドル、ミキシング、サーモスタット、シングルレバー、という混合方式4種類の基礎が確立される。しかし、これらの水栓金具を住宅用に展開するに当たって問題となったのが、湯水それぞれの水圧差であった。ホテル用のシャワー金具では湯も水もほぼ同じ圧力で供給されるが、住宅用給湯器を通ったあとのお湯側の圧力は水側に比べて低く、従来の技術をそのまま適応することはできなかった。
  • 埋込形ミキシングバルブ 露出形サーモスタット シングルレバー混合栓
  • ホテル用に開発した様々な機能をもった水栓金具をベースに、住宅用へと展開した
  • あらゆる工夫を重ね、快適なシャワーを開発
  • 湯水の水圧差を解決するため、お湯側の通水抵抗を少なくするあらゆる工夫が重ねられた。その努力によって、低水圧でも安全に使用でき、全体の吐水量も十分に確保した初めての住宅用シャワー金具が、1978(昭和53)年に発売された「HS(Home Shower:ホームシャワー)シリーズ」である。シャワーとカランを切り替えることのできる一時止水機能付2バルブ式水栓の登場により、それまではホテルでしか体験できなかった快適なシャワーが、住宅にも広がっていくこととなった。
  • HSシリーズ 2バルブシャワーバス金具TM115C
  • 世の中のニーズに応え、新しいライフスタイルを提案
  • 4 進化する水栓 ─水を極め、生活を変える
  • いつでもお湯が使えるシャワーは、かつて庶民の憧れであった。今やさまざまな技術進化を遂げ、標準的な住宅設備として普及している。今後は、日本のみならずグローバルへ向けてさらなる水栓の進化は続く。
  • 第1章 そもそも水栓とは何か
  • ものづくりの原点に立ち返り水を極める
  • シャワー金具が住宅に広がった1980年代に入ると、市場からはより高いデザイン性が要求され、TOTOでも様々なデザインの水栓金具を発売し、受け入れられた。しかし、そこにTOTOの経営陣は、水栓事業部の危機を見出す。「ものづくりの原点に立ち返るべきではないか」。その声の下、事業部内には新たな動きが始った。内部、外部と情報交換を進めるうちに浮かび上がってきたのが、「そもそも水栓とは何か?」という問いであった。だが、その答えは1つではなかった。なぜなら、一口に水栓といっても、台所、洗面所、浴室、それぞれで求められる仕様が違うからである。だが、そう考えてみると、この問いには答えを出すことができた。「水栓とは、水と人とのインターフェイスである」。ならば、やるべきなのはそれぞれの用途、シチュエーションにおける「水の出方を極める」ことであった。
  • 第2章 水の出方を追求
  • 台所・洗面所・浴室に適した水の出方を追求
  • 1990(平成2)年、TOTOは「fシリーズ」を発売。注目を集めたのが、多彩なシャワーバリエーションであった。通常タイプの「スプレー」に加え、滝にうたれるような感覚が楽しめる「うたせ湯」など、その使用シーンに適した快適で、多彩なシャワーを商品化した。台所用水栓金具においては、あらゆる対象物に最適な水の出方を研究した。その過程で生まれたのが、おたまを洗っても周囲に水が飛び跳ねない「ソフトスプレー吐水」だった。これは、その後業界のスタンダードになっていく。このようにして、シャワー・台所・洗面に適した水の出方を追求して生まれた「fシリーズ」は、水栓事業部に大きな成果をもたらした。それは、コアテクノロジー指向の定着であり、さらに、デザイン、設計、技術、製造との協業によるものづくり活動が活性化したことである。
  • fシリーズ シャワーバリエーション ソフトスプレー吐水(台所用水栓)
  • 水の出方を工夫(空気を吐水に混入)して水が飛び跳ねないソフトスプレー吐水が実現した
  • 第3章 脱鋳物に挑戦
  • 鋳物技術の未来を見つめて
  • 1994(平成6)年発売の「ニューファミリーシリーズ」、1995(平成7)年発売の「ニュージョイシリーズ」は、革新的な技術を織り込んだ商品として、業界に衝撃を与えた。それは「脱鋳物」。まさに業界の常識への挑戦であった。挑戦したのは、水栓金具の本体に耐食性に優れた管材を採用し、金属以上の強靱さを持つスーパーエンジニアリングプラスチックの機能部を組み合わせて、通水路を構成する技術だった。これはTOTOの得意とする金属加工技術と超精密樹脂成型技術の融合であった。しかし、この2つを組み合わせることは容易ではなかった。必要なのは新しい発想を実現化する製造の底力であり、強い現場力が技術開発を成功に導いた。
  • ニューファミリーシリーズ  サーモスタットシャワーバス金具 TMF40C(SMAサーモユニット搭載)
  • 水栓業界に一石を投じるべく、「脱鋳物」の新技術で開発された水栓金具
  • 第4章 TOTOのオンリーワン技術
  • SMA(形状記憶合金)サーモの開発
  • 同商品に搭載されたTOTOのオンリーワン技術「SMAサーモユニット」も、業界を驚かせた。この機構は、熱を感知する心臓部に形状記憶合金(Shape Memory Alloy:SMA)を使用した。従来に比べ圧倒的だったのはその反応スピードである。水栓のサーモスタットで長年問題とされてきたのは、断続的に温水シャワーを使用する際に発生するオーバーシュートだった。オーバーシュートというのは、お湯と水との温度調整が使用に追いつかず、一瞬高温のお湯が出てくる不快な現象である。この現象を完全に抑えこむことは不可能とされてきた。解決策は、より早く温度変化を感知し制御できる素材を見つけることだった。そこで浮上したのがSMAである。しかし、水圧に負けない強さや、温度によって比例的に力が変化するSMAを作る技術は、これまで実現されなかった。だがTOTOは、これを実現したのである。
  • SMAサーモユニット 一時止水後再吐水時の吐水温度変化
  • 水圧に負けない強さと、温度によって比例的に力が変化するSMAを、TOTOが実現
  • 第5章 SMAサーモの衝撃
  • コアテクノロジーの革新
  • SMAサーモが与えた衝撃は、水まわりや住設機器の業界にとどまらなかった。1995(平成7)年、スイスのローザンヌで開かれた、形状記憶合金に関する国際会議「’95 ICOMAT(アイコマート)」でSMAサーモが発表されると、世界中の研究者から賞賛された。さらには、SMAサーモの産業利用によって、日本のSMA総生産量を15%も増やすという、相乗効果をももたらしたのである。「ニューファミリーシリーズ」「ニュージョイシリーズ」ではこの他にも、15%も吐水量を減らしながら快適性は維持した節水シャワー、あるいはサーモスタットシャワーバス水栓のお湯側を水の通路で覆うことで水栓金具表面が高温になるのを防ぎ安全性を高めた本体断熱構造など、いくつもの新技術が登場した。これらの新技術は、コアテクノロジーとして以後の商品に反映されていく。
  • 当時の研究開発風景
  • 日々開発メンバーが寄り合い知恵を出し工夫を重ねコアテクノロジーは革新される
  • 第6章 挑戦は続く
  • 「6S」をよりどころに、コアテクノロジーを進化
  • このような取り組みを通して、「コアテクノロジーこそ原点」という共通認識が形成されていく。さらに大事にしてきたキーワードがある。①節水・省エネ、②安全性(Safety)、③操作性・視認性、④施工性、⑤清掃性、⑥静音性の「6S」 (図1)である。変化していく社会背景の中、「6S」を開発のよりどころに、コアテクノロジーを進化させていった。商品としては1996年、節水と高い操作性の追求によって生み出された「クリックシャワー」に続き、2000年代になると心地よい刺激によって血流量の増加やマッサージ効果をもたらすシャワー「ワンダービート」、水栓におけるユニバーサルデザインを追求し、“回す”から“押す”への操作革命を実現した「タッチスイッチ水栓」などが誕生し、いずれも日本市場で高い評価を得た。
  • 図1 6Sの当たり前化 クリックシャワー(1996年) ワンダービート(2002年)
  • 節水と高い操作性の追及が、市場での高い評価につながった
  • 第7章 次なるステージへ
  • グローバル視点でのものづくり体制の構築
  • このような中、2003(平成15)年春にはユニークな商品が誕生した。オーバーヘッドシャワー、ボディーシャワー、ハンドシャワーを一体化した多機能シャワー「シャワーバー」である。高機能や設置の容易さに加え、外観も全体がメタル調ですっきりまとまったデザインが、日本国内の高級物件市場だけでなく、海外でも人気を博しグローバル展開につながっていった。グローバル展開を進めていく中、並行して進められたのが、各国の市場ニーズを捉えることであった。コアテクノロジーをベースに現地のニーズを的確に捉え、商品の開発、製造、販売がスムーズに行えるような体制を構築していった。
  • シャワーバー(2003年)
  • 「シャワーバー」のグローバル展開と並行して、各国の市場ニーズを捉えたものづくり体制を構築
  • 第8章 グローバルブランド水栓を目指して
  • TOTOらしい技術と美しさの融合
  • 美しいデザインと、その中に埋め込まれた高度なコアテクノロジー、これがTOTOの水栓である。コアテクノロジーは進化を続け、2010年代になると「浴び心地」といった人の感性を設計値へと変換し、快適な「浴び心地」を確保しつつ、従来のシャワーに比べ約35%(※当社比)もの節水を実現した「エアインシャワー」や、「ジャイロストリーム」などの多様な吐水技術を生み出している。TOTOのシャワー技術は世界でも認められ、2015(平成27)年に「エアインオーバーヘッドシャワー」が世界的な環境賞「GREEN GOOD DESIGN AWARD 2015」を受賞した。TOTOが目指す“美しい水栓”。そこには、グローバル市場をリードしうるハイデザインとともに、水栓を「水と人とのインターフェイス」と考え、「6S」を大事にし、時代とともに磨いてきた、水を極める技術がある。日本発のシャワー技術が、世界のお客様の生活を変える日までTOTOの水栓の進化はまだまだ続く。
  • 進化したコアテクノロジーによって実現した、エアイン(左上)、脈動エアイン(右上)、ジャイロストリーム(左下)