今年もギャラリー・間にて「卒業設計日本一展」(以下、日本一展)が開催の運びとなった。今年で4年目を迎える日本一展は、仙台で行われる「卒業設計日本一決定戦」(以下、決定戦)の上位入賞作品を再構成し、リアルに伝える展覧会である。
「決定戦」というイベントは、仙台建築都市学生会議(以下、学生会議)という仙台の学生有志団体が企画、運営を担っている。学部2年生からこのイベントに関わった身として、大規模なイベントの企画、運営をこなし、他大学の学生と協同する仕組みを高いレベルで維持している学生会議の「プロジェクト力」は、他に追随を許さない仙台の建築学生の大きな価値であると自負している。日本一展の会場構成もまた学生会議の面々が、櫻井一弥・東北大学助教の陣頭指揮のもと尽力した。今回は学生会議メンバーでもある筆者が、「決定戦」の企画運営組織の内側から、この日本一展の見どころを紹介したい。
まず第1会場は、決定戦当日の熱気を伝えるべく構成された、受賞者の卒業設計作品が展示される。受賞者ごとに用意されたブースでは決定戦に出品された模型とポートフォリオの展示を中心に、それをさらに発展させたコンセプトモデルなどを展示している。CGのムービーでウォークスルーを展示している作品もある。またそれぞれの作品に向けた審査員のコメントや、審査員各々の卒業設計に寄せるテキストも展示されており、3月に行われた仙台での決定戦を観に来た人にとっても十分に新鮮で、見応えのある展示内容であることは間違いない。
第2会場では、今年も決定戦のハイレベルなプレゼンテーションと、手に汗を握る審査の様子を収めた映像を上映している。それを見るための座席として会場に設置している「スタイロソファ」と呼ばれるソファは、今年も学生会議の手によるものである。大きな無垢スタイロフォームの塊に人が座る場所をラフに削り出し、それがあたかも水紋のようにデザインされている。そこでゆっくりと、しかしじっくりと白熱の審査の模様をご覧戴けるようになっている。 過去の決定戦の審査映像も視聴できるので、これらを比べてみるのも面白い。審査員ごとの審査のクセや、コンテストにおける勝敗の決まり方などもきっと見えて来るはずだ。
また第2会場で同時に過去の卒業設計の膨大なポートフォリオを、あたかもレコードショップでお気に入りの一枚を探すように閲覧することもできる。世間ではこのコンテストが「卒業設計の甲子園」と呼ばれている通り、ただ一校の優勝校を除いて全校が敗退する甲子園と同様に、参加者の大半が1次の予選で、残りは本選で残念ながら敗退していく。でも当日のメディアテークを賑やかに彩り、この日本一展のポートフォリオ・ライブラリに大きな広がりを与えているのは、この圧倒的大多数の敗退者達に他ならない。もちろん、そんな彼らをいかに日の当たる場所にディスプレイするかは、僕たち学生会議のあいだでも初期の頃からの議題でもあったのだが、この日本を代表する「ギャラリー・間」でほぼ全参加作品を一同に開示できることは、日本一展が2009年の決定戦に関する展覧会であるということ以上に、これら参加作品の歴史的な資料としての価値を認めてくれる。
決定戦においては、一昨年から「梱包日本一」も新たにつくられている。これは、届いた作品の中身とは評価を切り離した、作品の梱包に対する賞である。小野田泰明・東北大学教授が予告もなくプレゼンテーション会場に現れ、梱包の善し悪しをレクチャーし、颯爽と去って行く一連の催しはもはや風物詩のひとつとなりつつある。いつかはこれらの受賞作品もこの「ギャラリー・間」で日の目を見ることがあれば、と期待している。
さて、来年3月には再び仙台で「卒業設計日本一決定戦」が開催される。決定戦への参加を目論んでいる学生も、遊びに来るつもりでいる学生も、あるいは全然関係ない人も、ひとまずはこの日本一展に足をお運び頂いて、卒業設計へのモチベーションと作品の研究を進めて欲しい。われわれ学生会議は、次回も仙台であなたを待ち受けている。
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