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ギャラリー・間 100回展 この先の建築
ARCHITECTURE OF TOMORROW
2003 05.24-07.26
 
A-3  Report 2002.09.21




パネリスト:石山修武/岸和郎/青木淳/阿部仁史/太田浩史
ナビゲーター:田尻裕彦
レポーター:藤本壮介
 
会場風景
会場風景
石山修武氏
石山修武氏
岸和郎氏
岸和郎氏
3時間に及ぶシンポジウムが終わったあとも、僕の頭の中をぐるぐる回り続けていたのは、リノベーションという言葉だった。その可能性と閉塞感が同居した響きが現在の僕たちの状況なのだろうか?

「これからの建築に対する主体的な意思を聞きたい」という、ナビゲーター田尻氏による問い掛けによってシンポジウムは始まった。「表層の移ろいに身を委ねつつ、戦略もないまま戦術的に処世しようとしているように感じられる」現状に対する、僕たち自身のもどかしさを代弁した問いだといえる。

それに答えて各人が自分のスタンスを、初めは口頭で、次にスライドを使って表明していく。

太田氏は、素材、省エネ、コンパクトシティ、という3つの大きなテーマを自分に課す。実作が少ないゆえに具体的な提案にまでは至っていないが、若さゆえの志を感じる。
続く阿部氏は、成長型から低成長型へのソフトランディングを根底に据え、商店街の中での結婚式のプロデュースや、熊本アートポリスでの住民を巻き込んだ身近な活動を通して、建築家の仕事を拡張する可能性を模索する。
青木氏は、機能からの建築は面白くない、むしろリノベーションに気持ちよさを感じる、と言い、リノベーション的なものを新築の建築にも展開しようとする。
岸氏は、出口がない今の状況に対して、活動のフィールドを建築というものにあえて限定し、近代建築の形式を少しだけ読み替えることに可能性を見いだす。
石山氏は、もはや建築は、建築家の側からは変えられない、クライアント、マーケットという他者を変えていかなければならない、と説く。具体的には、今まで近代建築が相手にしてこなかった子供や弱者のための建築を模索していくと言う。
休憩をはさんで始まったディスカッションが進むにつれて、5者5様に見えた主張が、実はリノベーションという言葉で繋がっているように思えてきた。そして、それは同時に、ある種の閉塞感を確認することでもある。

リノベーションとはなんだろうか? それは、何か大きな枠組みを設定し、その枠を前提として、その枠内で活動することだといえる。

例えば岸氏は、近代の形式を引き受け「それを少し読み替える」と言う。阿部氏は倉庫街の文字通り再生計画を練り、石山氏は「近代という形式を治療する」と言う。太田氏は、素材、省エネ、コンパクトシティという大きな問いを設定するが、それを超えていくというよりも、問題の枠内で真摯に解決を探ろうとしている。そして青木氏はリノベーションにストレートにあこがれる。

現代はリノベーションの時代なのかもしれない。ある具体的な枠組みが与えられて、その中で出来ることをする。枠組みを疑うことはしない。それは田尻氏が始めに投げ掛けた「表層の移ろいに身を委ねつつ、戦略もないまま戦術的に処世しようとしている現状」とも符合する。それでは主体的な意思はもはや期待できないのか? すべてはつくられてしまっており、後はそれをリノベーションするだけが、僕たちの仕事なのか?

そうではないと僕は思いたい。設定された枠内での問題解決では飽き足らない。僕は、枠組み自体を無化するような、無謀とも思える問いにあこがれる。そして議論の中のいくつかの言葉が、かすかな希望を示唆していた。
阿部氏の、ストリートにおける建築に囚われない直感的な活動の蓄積は、単なるリノベーションにとどまらない、建築の拡張を予感させる。石山氏は、「問題解決型から問題提起型へ」と呼び掛け、「設計図のもつ力を拡大する」「建築のつくり方の、違うモデルを」という呪文のような言葉で枠組みを揺さぶる。そして青木氏はリノベーション的なものをただ受け入れることはせずに、それを新しい建築の方法とすることを模索する。

残念ながら、こうして放たれた言葉は議論を深める方向には発展しなかった。青木氏にせよ、石山氏にせよ、その先のイメージはかなりぼんやりしたものなのであろう。しかしそのかすかな手掛かりから、あの時、あの場所で、どんな言葉が生まれてくるのか、それを僕たちは聞きたかった。その誕生に立ち合いたかった。

あぶり出された問題に、答はなかった。それは即席の答で満足したくはないという意思の表れだったのかもしれない。問いを、会場にいた僕たち全員に投げ掛けるように、安易な結論など出さぬまま、シンポジウムは終了した。

撮影=ナカサ・アンド・パートナーズ
青木淳氏
青木淳氏
阿部仁史氏
阿部仁史氏
太田浩史氏
太田浩史氏
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