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ギャラリー・間 100回展 この先の建築
ARCHITECTURE OF TOMORROW
2003 05.24-07.26
A-1  Report 2002.09.07
パネリスト:原広司妹島和世塚本由晴吉村靖孝
ナビゲーター:寺田真理子
レポーター:太田浩史
世代を超えた対話は、戸惑いと、共感の間を幾度となく揺れ動きつつも、いくつかの言葉を浮上させ、その響きの強さを確認するように進行した。「言葉」――。ベネチア・ビエンナーレの金獅子賞受賞のため、残念ながらシンポジウムを欠席した伊東豊雄氏が、冒頭に紹介された手紙で「素朴に、若い世代に"何故建築をつくるのか"と問いたい」と述べていたように、期待されたのは、簡潔で、実感が込められた言葉であった。
 
会場風景
会場風景
原広司氏
原広司氏
妹島和世氏
妹島和世氏
4時間という時間のなかで、パネリストそれぞれの言葉が単純に同調することは少なかったものの、伊東氏が期待したような深い言葉のやりとりがあったことも事実である。満員の聴衆がメモを取る筆を止め、対話の推移を見守る場面がいくつかあった。そうした場面では、私も息を飲んだ。

対話は、ナビゲーターの寺田氏の進行プランのもとで始まった。順に挙げると、(1)グローバリゼーションの中で日本、もしくは自分をどのように捉えるか、(2)日本、そして東京という都市をどのように捉えるか、(3)20世紀から21世紀へ移り変わった時代の変化をどのように捉えるか、(4)この先の建築のイメージとはどのようなものか、というものである。最も熱を帯び、時間が割かれたのは最初の(1)の部分であって、国際体験の豊かな各パネリストが、それぞれの実感から世界への距離感を語り合った。吉村氏はオランダでの生活体験をとおし、グローバリゼーションが「差異」の文化であることについて、塚本氏はヨーロッパのシンポジウムなどにおいて、環境の問題がつねにグローバリゼーションに付随されて語られていることについて、妹島氏は仕事の仕方の違い、そしてヨーロッパとアメリカの間の環境意識の差について語り、グローバリゼーションの複雑な断面が明らかにされた。

これに対して、集落調査という視点から建築を見つめてきた原氏からは別の「世界」があることが提起される。人口増加や飢餓、都市人口の増大のなかで、住処をもつことができない数十億の人たち。グローバリゼーションとはまた別個の人々への対応はどうなるのかと、鋭い問題提起がなされた。「近代建築は全ての人々に供することができる、という長い射程をもっていた。僕らはそれに憧れがあった」と彼は述べ、都市問題、そして環境問題に関わる対話の焦点を、ヒューマニズムの問題として鮮明に捉えようと試みる。
原氏のこうした積極的な問い掛けは、冒頭の伊東氏の問いと同様、若い世代に向けて挑発的になされた感がある。具体的には塚本氏が分析を続けてきた「メイド・イン・トーキョー」の射程について原氏が質問を寄せたのだが、「東京」という実験の、その論理性と人為性の所在を巡ってその答えがいつのまにか保留されてしまったのは残念である。また吉村氏が例に挙げたMVRDVのピッグシティなども、原氏の問い掛けに対応するものだっただけに、より細かい紹介と一般化が必要とされるべきではないかと感じられた。なぜなら最も議論が白熱したその部分に、この先の建築の姿が会場から強く期待されていたからである。

さて、射程を問う熱い議論の後、各パネリストがイメージする「この先の建築」のスライドが投影された。吉村氏は「デ・コード」をキーワードに東京論の深化を希求し、塚本氏はメルボルンのキャンプ場に見られたユーザーの社会意識に新たな規範性のヒントを得ようとする。妹島氏はプラダのインテリアの10mm厚のアルミニウムの壁を例に取り、空間を唐突に連結させる手法に新しい建築の姿を透視しようとする。原氏は内部に微気候をもつトリノの市庁舎とウルグアイでのプロジェクトをとおして、都市と環境問題への関わりを説明した。これらパネリストのそれぞれのイメージは、収斂してきた対話を再び建築の多様な実践へと還流させるものであったが、議論の後では、妹島氏のイメージに表れていた強固な論理性のように、遠い他者に伝わることができる、建築の強度だけが浮き立って見えた。そして、それはやはり「言葉」のように、まだ発音もできない曖昧な姿ながらも、論理のレベルで、この先の建築の行方を幾重にも照らしているようにも思われた。今後も続く対話のなかで、この先の建築の姿と、それを捉えるための言葉がさらに浮上することになるのか、私は楽しみにしている。

<お断り>
出席を予定されていた伊東豊雄氏は、都合によりご欠席されました。主催者よりお詫び申し上げます。
ギャラリー・間

撮影=ナカサ・アンド・パートナーズ
塚本由晴氏
塚本由晴氏
吉村靖孝氏
吉村靖孝氏

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